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壱話 盲目の剣豪と武神

ごめんなさい、投稿ミスしました…。

 鉄と血肉の匂いが鼻腔を擽る。


 血溜まりの上に広がる死屍累々の山の中、一人私は佇んでいた。


 手に握るのは長年愛用していた真刀。しかし、それも今や切った敵の血糊で真っ赤に染まっていた。


「私の人生もここで終わりだろうか」


 ぽつりと思ったことが口から零れた。


 先代様に拾われ、早、六十と三年。


 乞食だった私を拾って下さったあのお方ももうあちらに行ってしまわれ、今はそのご子息にお仕えしている身であったが老骨には戦は厳しかったようだ。


 猛将と謳われた私であったがその腕も随分落ちぶれてしまったものよ。


「しかし、お館様には私の弟子が着いておる。きっと大丈夫だろう」


 あんな輩であったが剣の腕は私に劣るとも言わない。

 あと数年もすれば立派な剣士になろう。

 強いていうなれば最後まで稽古をつけてやれなかったのが悔やまれるがそれも致し方ない話。


「さて、まだ敵は残っておる。殿としての務め、果たさねばな」


 私は右手に握る刀を軽く振るい、付着した血糊を払う。


「敵は『盲目の剣豪』ただ一人!奴の首必ず取るぞ!!」


 敵将の怒声が当たりの空気を支配する。

 数百はいるだろう敵兵の地を踏み締める音が私の鼓膜を震わせる。


 私は重心を前に倒し、倒れ込む様にして前に駆けた。

 この戦は最早残党狩りだ。私達は負け戦にまんまと嵌められ挑まざるを得なかった。

 あのいけ好かない男に掌で踊らされた訳だ。本当に癪だ。


「しかし、私はただ敵を切るのみ。

 あのお方の忘れ形見であるお館様の為にももう少し数を減らさせてもらうとする」


 老骨の身なれど、私は幾百の戦を経験した剣士である。人斬りの才があったことも功を奏し、光を失っても人を切る腕が落ちたわけではなかった。

 寧ろ、光を失ったが故に他の感覚が強化された。

 私には敵の位置、兵の背格好、兵の武装が手に取るように分かる。

 これは光を失い、剣士を辞めようかと葛藤していた時期に赴いた戦で身につけた技だ。


「『盲目の剣豪』の首、頂戴致す!」


 敵兵の一人が私に刀を振るう。成程、この者は剣の才があるのだろう、良い一撃であった。


「しかし、まだ若いの」


 私は刀を敵の刀に沿うように振るう。すると鋼で出来た刀はいとも容易くぽきりと折れた。


「んな!?」


 剣を折られた事に兵は同様を隠せず、一瞬たたらを踏む。


 その隙に私は彼の首に一撃を入れた。

 鋼と神鉄で出来た刀はなんの抵抗もなく彼の首の皮を裂き、その骨を経つ。

 一時はこの技で『首狩り』と言われたものよ。


「怯むな!こちらは二百だぞ!数で押しつぶせ!!」


 敵将の声により敵兵は奮い立ったのかその数を生かし、一斉に向かってくる。


「二百の兵士に相手して貰えるとは光栄だ。老骨の最後には勿体ない待遇よ」


 私はそう笑みを浮かべながら呟き敵を切るべく戦場を駆けた。



 ◇◇◇



「いやはや、私も老いたものよ」


 二百の敵兵と敵将の首を取った私の体は最早ボロきれのように至る所に傷ができ、そこからとめどなく鮮血が溢れ出ていた。


 手足の健は断裂し動けぬ私は戦場の真ん中で大の字で寝転がり天を仰ぐ。

 開戦時には晴れ晴れとしていた天の模様も今や雨一色。

 体の芯を冷やす様な冷たい雨に打たれ、私はただ空を眺める。


「この天気なら、敵も追いにくかろう。お館様は駿馬に乗ってられたのだから、きっと無事逃げ切ることが可能だろうな」


 私は私に苦虫を噛み潰したよう顔をしながら殿を任されたお館様の顔を思い出す。

 その隣にいた弟子も唇を強く噛み締め天を仰いでいた。


 お館様はあの方に似て豪快な方であったがとてもお優しい方でもあった。

 民のことを第一に考え、民の為ならば己の部下ですら切り捨てる覚悟を持った正に名君であった。

 そんな方に使えることが出来たのは天の祝福だろう。

 親子二代に渡って仕えた私を切る決断をした御方ならばきっとこの先も名君として領地を収めることができるはずだ。


 私は文官出なかった為替えは効く。後継者も育てたのだし、私の役目はもう終わった。


 戦場で死ぬのも悪くは無い。


 寧ろ武人としては股のない死に場所だ。


 ひとつ、心残りをあげるとするなら---


「剣の『頂き』。見てみたかったものよなぁ…」


 誰に言ったわけでもなくぽつりと零したそれは



 《その願い。叶えてあげようか?》



 私の頭上からの声に拾われた。


「な、何奴!?」


 私はがばりと体を起こす--つもりが四肢に力が入らず体を軽く震わせることに留まる。



 《無理に動かさなくていいよ。君の体、本来なら指の一本も動かせない程ボロボロだから》


 天から降り注ぐ声は私にそう告げた。


 この声は何なのだ?まるで私の頭に直接語りかけるかのように届くこの声の主の姿は視認できず、私は混乱する。


「お前は何者なのだ?」


 私の問いにその声は鷹揚に返答する。


 《ボク?ボクはね神様》


「神だと?」


 オウム返しで放った言葉に『神』なるものは愉快そうに言葉を紡ぐ。


 《そう。キミたちの言う神様とは少し違うかな。ボクの名はナシロノカタラベ。又の名を『武神』。

 武を司る虚ろなる神だよ》


『神』を自称する者 ナシロノカタラベは名乗りの後に私の頭上に姿を現した。


 不思議な事に光を失った私にもその者の姿ははっきりと()()()


 靄のようなものが人の形を成し、私を見下ろすように腰を折り、こちらに顔を近づける。


 長く艶やかな髪を後ろで纏めた少年とも少女とも取れぬ顔立ちのそれは着流しに身を包んだ幼い子供のような背格好をしている。


 そして何より気になるのは腰に差した物。


 目の前の背格好の者が振るうにはやや長いそれは透き通るように美しい純黒に輝く刀だった。


 《あ、やっぱりこれが気になるの?ははっ、目の前のボクよりも刀の方が気になるなんてキミはやっぱり面白い存在だね》


 ナシロノカタラベは軽快に笑いながら私の顔を覗き込んでいる。


「その刀はなんなのだ?」


 《これ?これはね『神刀』。ボクの友人『武器神』に作って貰ったボクの刀さ。天上界にしか存在しない鉱石などを素材にした業物でボクが二十万年頼み込んでようやく打ってもらった自慢の逸品さ。

 あっ、勿論あげないよ?》


 腰に差したそれを抜き、抱えるようにして持つその姿はまるで大事な玩具を取られまいと必死に抱える童のようで可愛らしくもあった。


 そして目の前の訳の分からぬ『神』を自称する存在に私は何故がこれが()()()()であるという実に荒唐無稽ながらも確信のある確かなものを感じた。


「それで先程の話はどういうことなのだ?」


 剣の『頂き』を見たいと言った私に目の前の存在は叶えてやろうと言った。


 その真意を私は聞きたかった。


 《そう、それが本題だよ。実はね、キミはあと数分で命を落とすんだ》


 なんでもないように言ったその言葉に私は何故がとても納得してしまった。


 《あれ?案外、取り乱さないものだね?

 普通、死ぬって言われたら取り乱すものなんだけどな》


「自分の体のことは自分が一番理解している。それに、私は十分生きた。悔いは無いよ」


 《ふーん、やっぱりキミは変わっているね》


 ナシロノカタラベは首をこてんと傾け、私の顔をじっと覗き込む。


 《まぁ、いいや。それで、もうすぐ死ぬキミにボクはささやかなプレゼントとしてもう一度剣を振るう機会を与えようって訳さ》


「成程。これから死ぬ老人には分不相応なものだな。して、それを『神』であるお前さんがなぜ私のような老いぼれにそんな物をくれようとしておるのかな?」


 褒められたことではないが私は神なんぞ信じていなかった。

 そんなものに縋るより剣の腕を磨くことの方が有益だったからだ。


 故に信仰心の欠けらも無い私に『神』がそこまでしてくれる訳を知りたかった。


 《……実はキミの事はずっと見てたんだ。実直に愚直に只剣の為だけに生きるキミ。

 来る日も来る日も剣を振り、敵を切る、正に修羅の如きキミの姿はとても見ていて面白かったよ。

 要するにボクはキミのことを気に入っていたんだ》


 ナシロノカタラベは一呼吸開けると、呟く。


 《ボクはね、キミなら来れると思っていたんだ》


「来れるって何処に」


 《ボクの袂。剣の『頂き』》


「剣の『頂き』……」


 《そう。なのにキミは死んでしまう。そんなの勿体ないじゃないか。ボク、とっても暇なんだよ。遊び相手がいなくてさぁ…。気まぐれで降りても張合いのある人間は居ないし。

 だからね。可能性のあるキミにもう一度チャンスをあげて、今度こそここまで来て欲しいんだ。ボクの袂、剣の頂きへ》



 私がなんと無しに零した言葉はなんと遠からず届く境地だったらしい。


 初めはただ生きる為であった剣が今や私の生きた証となり、生涯をかけて届くか届かぬかという境地を目指す生き甲斐になっていた。


 そしてその境地に届きうる所まで私は来ていたのだという。


 それを知った私には只純粋なまでの幸福感とそれを諦めきれぬという感情に支配された。


 《さて、それじゃあどうする。大人しく死を受け入れるか、ボクの贈り物を受け取り、ボクの元へと来るか》


「答えは決まっている。私はお前の元へと参ろう。ナシロノカタラベ、いや『武神』!」


 ニヤリと口角を上げ笑う『神』の姿に私も同じ表情を作り、言葉を返した。


 《いい返事だね!それではキミにボクからの贈り物をあげるよ。そして待っているよ。

 剣の『頂き』で!》


 そして、私は強い睡魔に襲われ意識を手放した。




 《さて、キミがあちらの世界でも生き残りボクの袂まで来ることを楽しみにしているよ。

『盲目の剣豪』タカエ・センシュウ》


どうも星井兎宇結です。


この後書きを読んでいる方の中で僕のもう一つ作品を読んでくださっている方がいるか分かりませんが読んでくださっている方に向けてこう言います。


有難うございます!と。


本当は僕としてはまだ新作を投稿するには技術不足なのではないかと思うのですが自分で書いていて「早く読んで頂きたい!」と思ってしまい投稿してしました。


しかし、投稿をしたからには読んでくださっている方に面白いと感じて頂けるよう頑張って行こうと思っております。


また、この後書き読んでくださっている方に僕のもう一つ作品を見ていないよという方は「龍に育てられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです」にも目を通して頂くと有難いです。


それではこれからは「龍に育てられた兄妹は龍に教えられた術で世界を謳歌するそうです」と

「盲目の老剣士は剣の頂きを目指し再び舞う」の二作品をよろしくお願いします。


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