097《14歳以下州代表》
番外編46
観光バスの車内。
伊立第一高等学校、佐貫那々珂教諭は生徒の野村寿里に懇願する。
「野村さん、思い直して」
「え~っ、だって、面白そうじゃないですか」
「怪我したらどうするの。
センター試験まで1カ月ないのよ」
「怪我しなければ良いんでしょう?」
「何かが起きてからでは遅いの、
大体、ブラジル出身だからって、
全員サッカーが得意とは限らないでしょう」
「私、サッカーは得意だよ」
「また、そんな事を、
あなたはね、現役で東大を狙える逸材なの」
「う~ん、東京の大学に行くの? みんなと一緒が良いな~」
「バカなこと言わないで、あなたは伊立一高期待の星なのよ」
明日は高校サッカーの全国大会出場を逃した、
吉備師恩学園と伊立第一のエキシビションマッチが行われる。
昼過ぎに都内の宿舎に着いた。
伊立第一高等学校サッカー部一同と、
女子選手枠で登録されたVリーグの成沢遥香、
リオことブラジルからの帰国子女、野村寿里。
そして助っ人、伊立第二と伊立女子高から三年生の元キャプテンが同行。
英語教師の佐貫那々珂も帯同している。
佐貫は密命を帯びていた。
受験を控えた野村寿里に無理をさせるな、
できる事なら出場を諦めさせる事。
「相賀君、あなたからも説得して」
「リオは結構、筋が良いですよ」
「成沢さん、あなたが30分。野村さんの分も出なさい、
つくばね大の推薦に受かっているのだから怪我しても大丈夫」
「無茶苦茶ですね」
「私、リオデジャネイロ州の14歳以下州代表だったよ」
「だからどうだって言うの」
那々珂先生はその意味が分からない。
「だろうな、一緒に練習していてもセンスが光っていた」
晴貴は思い当たった。
「見かけによらないけれど、動きは本物だったわね」
遥香も感心する。
「そんな経歴だったのですか!」
「一高に女子サッカー部が無くて良かった!」
練習にも参加していた助っ人の二人も驚く。
「そうよリオは凄いんだから!」
「ハットトリック目指せ~!」
「このままなでしこジャパンになっちゃえば!」
「相手も女子には本気で当たってこないよ!」
先生に頼まれ、ちゃっかりついてきた長島・西津・沼尾・根岸は、
説得役を放棄して、口々にリオを擁護する。
多勢に無勢、でも那々珂先生は諦めない。
「相賀君、あなたが野村さんの警護役よ。
密着マークしてボールがぶつからないように守りなさい」
「本当に無茶苦茶ですね」
宿舎では民間放送連盟の責任者、宗高。
麻生プロデューサー、江本ディレクターらが一行を迎えた。
サッカー協会関係者の顔もあった。
吉備師恩学園一行も東京駅に着いた頃。
江本Dが当日のスケジュールを説明する。
「しばらく休憩していただきます。
両校揃ったら、一緒に身体をほぐしましょう。
近くの体育館を押さえましたので、
そこで体操やフットサル。
それにバレーボールやパンポンで親睦を図りましょう。
西中郷さんと高萩さんも駆けつけてくれます。
それに……」
江本Dは勿体ぶる。
「応援ゲストも登場する予定ですのでお楽しみに」
BKBか。BKBね。BKBかしら。
うお~BKBだ! BKBに会えるの!
完全に読まれている。
問題は誰が「助っ人」として試合に出場するか。だ。
本命は大会主題歌をソロで歌う国分寺美香。
対抗は意外に運動センスのある高崎鈴。
サッカー部の一番人気はクールビューティーの笠戸菜月。
エキシビションの趣旨とはズレるが、ご褒美だと思う事にしよう。




