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095《エキシビションマッチの思惑》

番外編44

「首尾はどうだった?」

 高校サッカー選手権大会を共同製作し、放送する、

 民間放送連盟の責任者、宗高が尋ねた。

「上々です。

 吉備師恩の監督・高鈴剣次は全面協力を約束してくれました」

 プロデューサーの麻生が、

 交渉担当の系列局・吉備放送局からの情報を答える。


「伊立第一も実現の方向で、ほぼほぼ承諾してくれました。

 いえ、女子選手の常時一名出場枠に引っかかっているようでしたが、

 こちらの提案も含め少し考えたいと……。

『幻の全国大会を、三年生の引退試合及び女子マネージャーの慰労として』

 という趣旨は完全に理解してくれました。

 相賀本人も『審判割当てと調整がつけば』と言っています」

 バラキ県には県域テレビ局は存在せず、

 当然系列局も無いため、江本ディレクターが直接交渉している。

 伊立市からトンボ帰りした所で打ち合わせとなった。


「サッカー協会の審判部にも話をしておいた、問題は無い。

 エキシビションマッチへ審判員の協力も得られる事になった。

 摂津ドーナッツにも断りを入れたら、

 吉備師恩がOKなら三人の出場は認めると言ってくれた。

 ついでに高校女子選手権の連中にも筋は通しておいた。

 奴らも二刀流審判員には未練たっぷりなようだ。

『高校女子選手権で育てたようなものです』なんて言っていた。

 審判部への口添えもして欲しそうだったが、

 そこはサッカー協会が考える事だ……」

 宗高も押さえるべき要所は心得ている。


「伊立第一で女子選手は確保できそうか?」

 麻生Pが江本Dに尋ねる。

「女子マネージャーが各学年に一人ずついますが、

 何としても、相賀の双子の姉とされている、

 Vリーグの成沢遥香を引っ張り出したいですね」

「こちらの提案も含め、助っ人の線はどうだ?」

 何か引っかかりがある表情で宗高も尋ねる。

「伊立第二や伊立女子高から受け入れるとすれば平等に一人ずつ。

 吉備師恩の一年生・高鈴めぐみのレンタルと、

 BKBからの友情出場は、正直な感触を言えば望み薄です」

「BKBでは『主題歌をソロで歌う国分寺を出しても良い』と言っている」

「交渉の切り札には使えないか?」

 そこまで宗高は話を詰めてあるのかと舌を巻きながら麻生P。

「伊立第一では『趣旨がぶれる』と即刻却下されました」

 肩をすくめながら江本Dが報告する。

「まあ、そんなところだろう……。

 ところで『相賀の双子の姉とされている』と言ったな?」

 宗高は聞き逃さなかった。


 江本Dはニヤリ。

「ええ、成沢遥香と相賀晴貴は双子として育てられた、ただの幼馴染です。

 父親の成沢監督と相賀監督は元伊立北部(男子)のチームメート。

 そして成沢遥香の母・遥美と、相賀晴貴の母・貴美も、

 元伊立北部(女子)のチームメートでした。

 晴貴が5歳の時に母親は亡くなっています。

 伊立では『公然の秘密』と言うやつです」

「スクープしますか?」

 麻生Pが考え込む宗高の様子を窺う。

「……いや、それには及ばない」


「実はそれ以上の耳寄りな話が……」

 江本Dは再びニヤリ。

「……相賀晴貴は、二刀流でイタリアに行きます」

 これには二人とも驚いた。

「相賀はつくばね大学を目指しつつ、

 伊立ゾンネンプリンツでも練習しているはずだが……」

「偽装ですね。『特別指定選手』の申請すらしていません」

「確かに。承認されれば在学のままでも公式戦に出られるはずだ……」

 江本Dは頭を掻きながら打ち明ける。

「正直言うと、情報源から口止めされていたのですが……」

「成沢と相賀の後ろ盾、西中郷と高萩だな……。

 伊立ゾンネンプリンツを巻き込むとなると、

 裏で糸を引いているのはアイゼン・シュルツェンか……。

 レアルに太いパイプを持っているが、イタリアで二刀流となると、

 たしか財政難で合併するチームがあったはずだ……」

 相変わらず宗高は鋭い。

「流石ですね。スクープは自分たちの番組で、と言っています……」

「分かった。スポーツ局には俺から条件付きで情報提供しておこう。

 スクープは譲っても、取材力ならウチが後手を踏むことはない……」

 エキシビションマッチは様々な思惑を含み大きく動き出した。


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