094《エキシビションマッチの構想》
番外編43
第96回全国高等学校サッカー選手権大会、
バラキ県大会の結果が出て、
47都道府県の代表校が決まった。
「伊立第一負けました……、
いえ、出場権を逃しました」
プロデューサーの麻生が報告する。
「分かっている……」
高校サッカー選手権大会を共同製作し、放送する、
民間放送連盟の責任者、宗高は何か考え込んでいる。
「二刀流は目玉の一つになるかと思ったのに、残念ですね」
「そうでもないさ……、プランAがダメならプランBだ」
「ああ、そういう事ですか、三刀流作戦ですね」
「サッカー協会の審判部は、元々そうしたがっていた」
「むしろ、認知度が上がったと考えるべきですね」
「そういうことだ」
「失礼します」
ディレクターの江本がやってきた。
「相賀晴貴の件ですが、
BKBとは何度か接触の機会はありましたが、
交際の線はナシですね」
「だろうな」
「どうしましょう、煙を立てるのは簡単ですが……」
「止めておけ、ウチが火元になる必要はない」
「では、この線は成り行き次第という事に……」
「どうした?」
報告が済んだのに江本Dが引き上げようとしない。
宗高は訝しがる、何かあるな。
「吉備県大会の結果はご存知ですね」
「ああ、確か吉備県大会も決勝戦は引き分けだったはず」
「吉備師恩学園がPK戦で代表を逃しました」
「何か面白いサイドストーリーでも?」
麻生Pも嗅覚が鋭い。
江本Dはニヤリ。
「優勝したのにもかかわらず、全国大会に出られない、
吉備師恩と伊立第一が繋がっています」
宗高も麻生Pも興味を引かれた。
「まず吉備師恩の監督・高鈴剣次は、
前伊立ゾンネンプリンツユースのコーチ。
ジュニアユースで相賀晴貴を育てたのが彼です」
麻生Pがメモを取り始める。
「吉備師恩は春・夏に遠征で伊立を訪れています」
「選手同士も顔見知り、という事だな」
「はい。これはご存知かもしれませんが、
吉備師恩の女子マネージャーは、
三人とも審判員の資格を持っています。
おまけになでしこリーグの、
摂津ドーナッツでユース登録」
「資料にあったな、その中に監督の娘もいたはずだ」
「その通りです。
相賀の受講した、かうべ市のユース限定二級研修会で、
一緒に審判員チームも組んでいます。
しかもその時には高鈴の家に居候しています」
宗高の片眉が跳ね上がる。
「ドーナッツの関係者によれば、
高鈴の娘、めぐみは将来有望なプレーヤー、
相賀とは兄妹みたいな関係とか、
しかも、そっくりなフェイントを得意としています」
江本Dは要点をまとめにかかる。
「荒れた吉備師恩をまとめた女子マネージャー。
将来有望な監督の娘が兄とも慕う、
サッカー、審判員、バレーボールの三刀流で、
同じく文武両道の姉を持つ、双子の高校生。
全国大会で会おうと切磋琢磨した両チーム。
そして、同じく優勝したのに出られない全国大会」
「切り口はいくらでもあるな」
麻生Pは感心する。
宗高は江本Dを鋭い目で見据えた。
「で、全国大会に出る事ができないチームを、どうしたい?」
「エキシビションマッチです」
自信ありげな江本D。
「詳しくプランを聞こうじゃないか」
宗高も麻生Pも身を乗り出した。




