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090《吉備県大会決勝》

本編49

 バラキ県大会の決勝トーナメント前に、

 引退した前キャプテンの奉行十三が復帰を申し出た。

 チームに戻ればFWの軸になる。

 しかし下級生から見れば身勝手な行動に映らないか、

 それを受けてポンコツが動いた。


「奉行、お前、虫が良すぎるぞ、

 復帰したいのなら本気を見せろ」

「練習はサボらない、みんなにもお願いする」

 骨本は腕組み。

「それは当たり前だ!

 それだけじゃ誰も納得しないぞ」

「どうすればいい?」

「復帰するならお前が一番下っ端だ。

 毎朝部室の掃除から始めてもらう」

 奉行は黙って頷く。

 それを見てポンコツは息を吐いた。

「……俺の背番号2をつけろ、俺が引退する」

 奉行の顔がゆがむ。

「そんなことできない……」

「その程度の生半可な気持ちで、

 復帰を言い出したのか」

「……」

 奉行は唇を噛む。

「俺は、お前の復帰はチームのプラスになると思う。

 だから裏方に回る」

「でも……」

「ここまで言わせておいて、

 俺に恥をかかせるのか!」

 骨本も、奉行も、立ち会った晴貴も、八雲も、

 魂のぶつかり合いに、身を震わせた。

「俺は今から主務だ。

 コイツの我儘を許してやってくれ」


 翌日からポンコツ先輩は新人の主務として振る舞った。

 本気の行動に下級生は何も言えない。

 監督の庄山は成り行きを見守った。

 結論を出したのは八雲以下の下級生。

 奉行と骨本のメンバー登録を監督に直訴した。



 多賀冬海はWEBサイトから求められるまま、

 定期的に『ハイテンションFIVE』の原稿を送り続けた。

 パンポンネタや夏休みの離島ネタなど。

 遂に編集部から提案を受ける。

「作品のキャラ、テイストはこのままで、

 来年四月から、毎月一回更新。

 基本4ページで扉絵と4コマ7本。

 三年間の時間経過を追いながら、

 高校生活を描いてみるのはどうでしょうか。

 ストックの中から春までに2~3回、

 先行掲載を行って読者の反応を見ます」


 夢のような話だったが、

 舞い上がったのは一瞬だった。

 真っ先に打ち明けた小木津亜弥に釘を刺される。

「プロデビューが決まったわけじゃないわ。

 浮き足立っちゃだめ、公表も控えましょう。

 これからは1コマ、1コマが勝負よ!」

 冬海は卒業後の進路を、

 専門学校か地元の短大かで迷っていた。

 亜弥と一緒の専門学校に進むのも良いかな。


 亜弥は声優の勉強のために専門学校に行きたかった。

 両親は国立大学への進学を望んでいる。

 おじいちゃんは好きな事をしなさいと言っていた……。

 センター試験を受けるための準備はしている。

 晴貴と距離を置いた理由の一つに、

 出来るだけのことはしてみようという考えもあった。

 大学入試を突破した上で、

 自分の気持ちと、もう一度向き合おう。


 長島依子は動物と触れ合う仕事に憧れた。

 かびれ動物園に通ううちに、

 獣医になりたい気持ちが芽生えた。

 ペットのトリマーも良いかな。

 いや、勉強は大変だけれど、

 やるからには高みを目指そう。


 西津悠は、天球劇場の解説員に訊いた。

「どうすればプラネタリウムの解説員になれますか?」

 天文学に興味があるのは大事だけれど、

 そこに偏らず、幅広い知識を身につけて。

 身分は公務員だったり、団体職員だったりするので、

 アンテナを張り巡らせて、チャンスを逃さないように。


 沼尾柚亜は無類の本好き。

 読書が趣味なのは設定ではなく真正。

 何となく教師を目指していたが、

 図書館司書を育成する国立大学が、

 つくばね学園都市にある。

 具体的な目標が定まった。


 根岸桜芽には幼い頃からの夢があった。

 漫画や映画で見た宇宙飛行士は皆、格好良い。

 ロケットや宇宙船を操縦するだけが宇宙飛行士じゃない。

 様々な職種のプロフェッショナルが宇宙で活躍している。

 それならば、私にも可能性がある。

 この夢を語ると笑う人もいるが、

 身近な友人たちは応援してくれる。

 宇宙工学を学べる大学を目指そう。


 野村寿里は日本語の勘が磨かれてきた。

 帰国当初は試験の設問が分からない事も多かったが、

 慣れるに従い、徐々に頭角を現し、

 普通に学年上位をキープしている。

 教師たちはしきりに進学を進めた。

 学校の先生、外交官、お花屋さん、お嫁さん、

 なりたい将来は一つには決められない。

 得意のポルトガル語を活かすために、

 外国語大学を目指してみようかな。


 遥香と晴貴もそれぞれ、

 Vプレミアリーグ、Vチャレンジリーグで選手登録されたが、

 センター試験に備えた勉強は怠らない。

 Vリーグの開幕はそれぞれ、10月下旬と11月上旬。

「今は思い切りサッカーをやってこい」と、

 晴貴は伊立コンクレントから送り出された。



 吉備師恩学園高等部は、吉備県予選を勝ち抜いた。

 華麗なパスサッカーがかみ合うと手をつけられない。

 どの試合も点の取り合いになった。

 あれよあれよという間に決勝戦進出。

 決勝戦でも、取って取られてシーソーゲーム。

 延長戦でも決着がつかず、

 規定により両校同時優勝。

 全国大会への切符を賭けたPK戦。


 監督の高鈴剣次はただ一言。

「好きなようにやれ」

 マネージャーの大津優季は、

「みんな、悔いを残さず思いっ切りね」

 ジャンケンで順番を決めたが、

 誰も手加減はしない、

 思いっ切り、全力で蹴り込むのみ。


 コイントスで先攻。

 一人目は×失敗。 天高く「宇宙開発」。

 二人目は×失敗。 ゴールバーに鈍い音で弾かれる。

 三人目は○成功。 ド真ん中だがGKが右に飛ぶ。

 四人目は×失敗。 ゴールポストに弾かれた。


 外してはゲラゲラ大笑い、

 弾かれてはゲラゲラ大笑い。

 決めては「まぐれ」とゲラゲラ大笑い、

 また弾かれてゲラゲラ大笑いして、

 勝負が決まり、五人目が蹴れなくてゲラゲラ大笑い。

 これが俺たちのサッカーだ、と言ってはゲラゲラ大笑い。


 優勝旗と優勝杯に賞状は、

 相手チームが花を持たせてくれた。

 ゲラゲラ必笑軍団は応援席に挨拶。

 ベンチに戻ると、松平知と高鈴めぐみは、

 優勝はしたが、全国大会を逃したので泣いている。


 三年生の大津優季は笑顔で選手を迎えた。

「優勝おめでとう。

 あなたたちらしいわね。

 思いっ切り戦ったから、

 悔いはないでしょう」

 優勝旗を持った主将が言った。

「ごめん……。

 一つだけ悔いが残った。

 大津を全国大会に連れていけなくて……」

 皆、口々に大津に謝る。

 次第に嗚咽が混じりだした。

 荒れたチームを6年かけてまとめたのは、

 女子マネージャーだった大津優季。

 強がりはここまで、全員揃って大号泣。

 大津優季も泣きながら選手を労う。


 最後は涙なみだの胴上げになった。

 大津優季が宙を舞う。

 ついでに松平とめぐみも宙を舞う。

 全国大会への切符は一枚。

 十代には、あまりにも酷な現実だ。

 結果を受け容れるには、

 それなりの儀式が必要だった。


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