088《油縄子島》
番外編41
琉球県、新垣石空港に降り立つ7人。
成沢遥香。多賀冬海。
長島依子。西津悠。沼尾柚亜。根岸桜芽。野村寿里。
空港には葡萄お兄様が迎えに来ていた。
小木津亜弥も、翌日には来る予定。
日本最西端から三番目、最南端から三番目にあたる。
南十字星が見えるユナゴ島。
そこで林檎が待っていた。
町屋林檎は通信教育で学びながら、島の分校のお手伝い。
時々、看護師兼保健婦として働く母・蜜柑のお伴で、
近隣の諸島をめぐる。
父親は一年間、週の半分は諸島を管轄する診療所から、
大きな町の病院へ通い、臨床のおさらいをしていた。
最近、ようやく本島の診療所を拠点に腰を据えた。
町屋葡萄は通信教育で高校の残りの単位を取得、
漁業や農業を手伝いながら、通信制の大学で学ぶ。
宣言通り、林檎の手本となっていた。
分校の先生は定年間近の男女二人きり。
林檎は教室の片隅を間借りして、
自習しながら授業のお手伝いもした。
体育の時間は、若い兄妹が率先して見本を見せた。
最初、子供たちは「林檎先生」と呼んでいたが、
それだけは止めさせた。
分校の先生たちは『いつか本当の先生になりたい』という、
林檎の想いをくみ取って、
子供たちには「林檎ちゃん」と呼ばせた。
冬海は南の島の子供たちにお絵描きを教えた。
亜弥は子役経験がばれて芸能人扱い。
五人娘は子供たちの絶好の遊び相手。
遥香は南の島で思いっきり弾けた。
全ての俗事を忘れ、
相賀晴貴の分まで思いっきり弾けた。
島の中学生・高校生は普段、
学校のある本島に下宿して、油縄子島にはいない。
そこに来たのが、島出身・町屋木苺の孫、葡萄と林檎。
両親の寿應・蜜柑夫妻が、町屋家と養子縁組した。
夏休みには島外の中学・高校に通う子供たちが帰ってきている。
今年は林檎のお友達が8人も遊びに来た。
ワイワイ、ガヤガヤ、きゃぴきゃぴ。
観光スポットのない過疎の進む島は、
久しぶりに華やいだ、賑わった。
島に残った若い男たちは林檎の存在に目が釘付け。
大きな町になじめず、島に戻り、家業を継ぐ者、
都会の人間関係に耐えられず、故郷に帰った者。
何をしても長続きせず、
島と大都市を、何度も行ったり来たりしていた知念萬郷は、
懲りずに一時撤退のつもりで、島に戻った。
実家は、今では島唯一の雑貨屋。
新聞や郵便・宅配便の配達も請け負っている。
島を離れたはずの友達が何人も帰って来ていた。
理由はすぐに知れた。
萬郷も林檎に心を奪われた。
いつの間にか、島の若者たちの中で紳士協定が結ばれていた。
林檎に対して抜け駆けはしない。
挨拶以外に用もなく話しかけてはいけない。
萬郷は実家の家業を手伝う。
両親を店と畑仕事に専念させ、
自分は島中を歩き回り、集配業務を行う。
これなら必ず、一日一回は林檎と挨拶ができる。
悪天候で配達物が届かなくても、
何かと理由をつけては島中で御用聞き。
林檎だけを特別扱いする訳にはいかないので、
知念のバカ息子は心を入れ替えて、
島に骨を埋める気だ、と評判に。
「り、り、り、林檎ちゃん、おはよう」
「萬郷さん、おはようございます」
通信教育を受けている林檎は、
教材の受取りやレポートの提出が多い。
「り、り、り、林檎ちゃん、出すレポートはないのかな」
「萬郷さん、そう急かさないでよ」
毎日、毎日。
何気ない会話が交わされた。




