083《亜弥と冬海とBKB》
番外編37
BKBが次々とバスに集結する。
ミニライブの衣装はパンポンユニフォームのまま。
速やかな撤収のため工夫を重ねている。
まだファンには撤収は気付かれていない。
車中には小木津亜弥と多賀冬海の姿も。
亜弥の家に前泊した国分寺美香を、
早朝ピックアップした時から一緒だ。
乗車前にスタッフがインカムを回収。
ほとんどはダミー。
実際に通信できるのは主要メンバーだけ。
ライブでの口パクなど今や常識。
突っ込むだけヤボと言うもの。
「全員揃いましたか?」
スタッフが大声で確認。
技術スタッフが異常を知らせる。
「2番のインカム未回収です……高崎さんいますか?」
『いないよ~~~』
メンバーが応えた。
警備員のチーフが青い顔。
「うちの警備員が高崎さんを確保していますが、
外でファンに囲まれているようです!」
無線で交信しながら指示を飛ばす。
「……何とか近くの建物に誘導するように、
陸上競技場?
至急応援に行かせる!」
スタッフもインカムを通じて高崎に話しかける。
「たかりん! どこにいるの!」
『あ~、ごめんなさい、陸上競技場です』
しばらくやり取りがあったが、急に高崎から提案があった。
「伊立電鉄線のさくらアリーナ駅前にバスを回して下さい。
ここからそこへ、混乱を避けられる抜け道があるそうです」
「さくらアリーナ駅前? どうやって行く」
運転手は大まかにしか知らない。
「案内します」
同乗していた多賀冬海が請け負った。
バスがさくらアリーナ駅前に到着すると、
ピラミッド型のアクアスポットふれあい館横を、
相賀晴貴が高崎を抱えたまま駆けてくる。
たかりんは通行人に向けてレッドカードを振りかざす。
二人の警備員が付き従う。
冬海が扉の開いたドアから手を伸ばす、
小木津亜弥はあえて知らん顔、
国分寺からおつきあいの事は内緒にと言われていた。
誰よ、相賀君にちょっかい出そうとしているのは。
「ミッション完了。後は頼んだ」
「ラジャー」
冬海が晴貴から鈴を引き継ぐ。
『たかりん、おかえり~~~』
メンバーは所詮他人事、キャッキャと面白がる。
ひとり、おかんむりなのがリーダーの国分寺。
ひとしきり説教が終わると、
メンバーが高崎をいじり出すが、
反省しているのか何も語ろうとしない。
「……で、何なの、そのレッドカードは?」
誰かが矛先を変えた。
高崎が目を輝かせる。
「これって実は魔法のバトンなの!
これを示したらみんな道を開けたわ、
たかりんビームとこれがあれば私は無敵よ!」
何のこっちゃと盛り上がる。
「相賀君の警告カードだよね」
冬海が亜弥に同意を求めた。
「そうみたいね」
なぜか晴貴の彼女は素気ない。
ああ、そこはイジっちゃいけないポイントなのね。
冬海は即座に理解した。
ふ~ん、たかりんが相賀君に興味を持っているのね。
嬉しいような、誇らしいような、でもなんだか可哀想。
アイドルの掟は厳しい、仮にあの娘が付き合えたとしても、
私と同じ寂しさを、何倍にも感じてしまうのかな……。




