082《除魔の赤護符》
番外編36
◇◆◇
「痛った~~~い!」
思わず叫んでしまったが、
地面と衝突する前にしっかり抱き止められたから、痛くない。
王子様は白い歯を見せて微笑んだ。
「お怪我などさせません」
瞳がそう語っている。
ううん、私には聞こえたわ。
いいえ、間違いなく言ったのよ!
私はたかりんこと、リン・タカサキ・BKB・ザッパー。
セカンドプリンセス・オブ・KAWASAKI。
要するにKAWASAKI帝国ザッパー家の第二皇女。
二人の護衛を従え、憧れの王子様と夢の逃避行。
ああ、私を庇って膝をついた王子様が落とし物をされた。
あれは『正義の笛』と『除魔の赤護符』だわ、高貴な王家の証ね。
「私がお拾い致しますわ」
拾い上げると同時に、私の身体がフワリと宙に浮いた。
王子様がたくましい腕で私を抱き上げ走り出した。
きゃん!
いけませんわ、皆が見ております!
ピラミッドの角を曲がり、
スフィンクスも一気に飛び越えた。
二人の護衛と王子様は、悪い妖精やゴブリン共をかわしながら突き進む。
王子様の『正義の笛』を手にした私は、
何てことを思いついてしまったのかしら……、
間接キスだなんて、そんな無作法が許されるはずもない。
でも、でも、この窮地を脱するには……。
そうよ、これは私たちに必要な儀式なの、
二人の明るい未来のためなの、
……決して、変態行為なんかじゃないのよ!
「ピ~~~ッ!」
『正義の笛』を高らかに吹き鳴らし、
『除魔の赤護符』を振りかざす。
悪い妖精やゴブリン共は動きを止めた。
効果てき面。
「やるじゃないか」
王子様が褒めて下さった。
そうよ確かに言ったはず、だって私には聞こえたもん!
◇◆◇
ホイッスルは回収できたが、
レッドカードは持って行かれた。
BKBチームZ650の、
たかりんこと高崎鈴をバスに無事送り届けると、
相賀晴貴はサポートしてくれた警備員の二人とハイタッチを交わす。
しかし、このまま引き返すのは得策ではない。
たかりんファンが目の色を変えて追ってくる。
「こちらへ!」
警備員と共に川の池屋上公園の外側を迂回。
さくらアリーナと市民陸上競技場の、
丁度中間辺りに小さな出入口がある。
そこを通ってそれぞれが持ち場に戻る。
陸上競技場のエントランスに着いてようやく一息。
次の試合がそろそろ始まる。
審判控室に戻ると、
副審の二人はもう着替えてくつろいでいた。
試合結果の報告も代わりに済ませておいてくれたようだ。
簡単な経緯を説明して謝ると笑って許してくれた。
たかりんの事をイジられたが「実は又従兄妹なんです」と、
適当に答えておいたがそれ以上の追及はない。
副審二人が帰ると、晴貴は独り取り残された。
レフェリーシャツとアンダーシャツを脱ぎ、Tシャツに着替える。
持ち去られたレッドカードは諦めよう、
予備のカードは持っている。
ふと、ホイッスルに目を止めた。
たかりんは躊躇なく吹いていたな……。
「……ピッ」
このド変態が!
成沢遥香の声が聞こえたような気がした。




