081《夢見る乙女》
番外編35
たかりん。こと高崎鈴はこってり絞られた。
勝手な行動をリーダーからきつく叱られた。
反省してシュンとしているように見えるが、
憧れの王子様との劇的な再会と、
夢のような疑似逃避行で骨抜きになっていた。
◇◆◇
王子様に力強く導かれ、
お披露目のピッチを駆け抜け、
野を越え、山を越え、
従者をおとりに使い、
二人っきりの濃密な時間、
木陰で肩を抱かれて密着、
いけませんわ、王子様……。
せせらぎが二人を祝福する、
みんな私たちを見て!
祝福をありがとう!
そしたらいきなり抱きあげられた、
お空を跳んでいるみたい、
ゴブリンやお邪魔虫たちは、
私の魔法で根こそぎ退治よ、
誰にも邪魔はさせないわ!
円筒型の連絡橋に突入、
部分的な採光窓のおかげで、
幻想的な光と影のコントラスト。
陰影の空間の先には明るい未来ね、
時空を超えてどこへでも、
ご一緒します王子様、
光が拡散し目が眩む、
目の前にはエジプトのピラミット?
もう現実かどうかも分からない、
一瞬、足下がおぼつかない、
意地悪な階段ね、
下りの段差で空足を踏む、
大丈夫かいと再び私を抱き上げ、
王子様は凛々しく進む、
文字通り、私はか弱いお姫様、
お似合いの私たちは未来へと進む、
あれはカボチャの馬車かしら……。
王子様は優しく私を押し上げた、
……ん?
◇◆◇
「ミッション完了。後は頼んだ」
「ラジャー」
『たかりん、おかえり~~~』
脳内空想、妄想美化の少女は、シートに腰をおろす。
ここはどこ、王子様は何処へ?
あ、ゴブリンの親玉が睨んでいる。
「高崎! 一体何していたの!」
……うわ~、現実に戻りたくな~い。
「ちょっと、鈴、聞いているの?」
「うえ~~~ん」
またしばらく会えないのかなと思ったら泣けてきた。
「しょうがないわね、ちゃんと反省するのよ!」
ゴブ……国分寺美香の説教は終了。
「夢見る乙女は心ここにあらず、恋敵にも気付くことなし。
夢かうつつか幻か、困難は次々に迫りくる。
しかし運命の星の下、それを乗り越える事こそが成長……」
占いの得意な笠戸菜月が、お告げを授けた。
バスはシーサイドロードの駐車場で一旦停止。
国分寺のマネージャーが先回りしていた。
朝から同乗していた小木津亜弥と多賀冬海がバスを降りる。
国分寺と高崎もついて来る。
BKBの残りメンバーは高速道路で帰京する。
だいぶ前から西中郷素衣と高萩直から誘われていた。
「伊立の名物『焼肉どんぶり』をご馳走するよ」
ようやくスケジュールを合わせた。
これから指定の中華料理店「大来軒」へ向かう。
小木津と国分寺は親友同士。
多賀と高崎が隣同士で座る。
冬海は元気なさそうに見える鈴を、あれこれ気遣う。
夢見る乙女は気付かない、恋敵がすぐ目の前にいる事を。




