080《たかりんの大脱出》
番外編34
第38回伊立市パンポン大会当日。
相賀晴貴はさくらアリーナの隣、
伊立市民陸上競技場でサッカー市民リーグの主審を終えた。
副審2人と会話を交わしながら、控室に戻ろうとすると、
陸上競技場ロビーにBKBチームZ650の高崎鈴。
嫌な予感がした。
警備員二人が必死で扉を押さえている。
外にはBKBファンと野次馬が殺到。
「おまえ、何をしている?」
高崎の顔がぱっと輝く。
「王子様! やっと会えました」
王子と呼ばれて面食らうが、どうやら予断を許さない状況。
「早くBKBのバスに乗れ」
「それなんですけど~……」
「また乗り遅れたのか!」
「だって~、王子様を探していたんだも~ん……」
頬を膨らます高崎が身につけていたインカムががなりたてる。
『たかりん! どこにいるの!』
「あ~、ごめんなさい、陸上競技場です」
やり取りを聞きながら晴貴は冷静に判断。
「バスを伊立電鉄線のさくらアリーナ駅前に回すように伝えろ!」
「はい!」
晴貴は警備員二人に護衛を要請、元よりそれが二人の仕事だ。
「いくぞ!」
「は~~~い」
二人の警備員を従え、高崎の手を引き、晴貴は競技場に戻る。
30分後に開始される次の試合のためにウォーミングアップする選手たち。
一行はセンターラインを中央突破した。
観客は多くないが、さすがに高崎は目立つ。
そればかりか、走りながらも選手やスタンドに愛敬を振りまく。
バックスタンドをよじ登り、国旗掲揚台の裏の出入り口から場外へ。
ここまでは順調。
陸上競技場の周回道路と、ジョギングコースを超えれば、
目の前が『川の池屋上公園』入口。
伊立市の下水処理施設の屋上に作られた親水公園だ。
ここを通り抜ければさくらアリーナ駅。
晴貴は時計台の前で一瞬、ためらった。
駅に向かってぞろぞろと帰路につく者たち。
そのいでたちは間違いなくBKBファン。
たかりんの鉢巻き・うちわを手にした者も多数。
まだ気付かれていないが、ちょっと厄介。
警備員には近道の右手から進んで、連絡通路の確保を頼む。
自分は高崎を連れて、左手から木陰を利用しながら回り込む。
樹木に隠れるように、せせらぎ水路を回り込み、太鼓橋を越える。
エスコートされるたかりんは本当に嬉しそう。
警備員が連絡通路の入口を確保。
水道管を模した直径3メートルほどの円筒型の連絡橋だが、
通路幅はせいぜい150センチ。通り道はそこしかない。
BKBファンたちが突然封鎖された入口前で警備員ともめている。
ここから先は隠れる樹木もない。
せせらぎ水路に架かる階段橋を渡って、
再び階段を登れば連絡通路入口。
強行突破するしかないが、
気付かれずにどこまで近づけるかが勝負だ!
「みんな~~~、今日はありがと~~~う!」
「バカなっ!」
安易な高崎のファンサービスで呆気なくばれた。
『たっかり~ん! らぶり~ん! たっかりぃ~~~ん!』
野太い奇声を発しながらファンが雲霞のごとく押し寄せる。
連絡通路入口から取って返したファンが、
最初の通過ポイントである左手の階段橋に達した。
右手の階段橋もファンがゾンビのように越えてきた。
このままでは挟み打ち、
咄嗟に晴貴は高崎を抱きかかえ、せせらぎ水路を飛び越える。※
本隊は上手くやり過ごしたが、まだ残る残存兵力。
「の・う・さ・つ、たかりんビ~~~ム!」
親指と人差し指の先でハートをかたどり、その両手を額にかざす。
高崎の必殺技、悩殺たかりんビーム(笑)が炸裂した。
『たっかり~ん! らぶり~ん! ふぅ~~~っ』
ファンはお約束通り、悶絶して倒れる。
お見事、君たちはファンの鏡だ。
「お前は魔法少女か」
「キャン!」
※せせらぎ水路は下水を再生した水を流しています。
良い子はせせらぎ水路に入ったり、飛び越えたりしないでね。




