078《7人の扮装》
番外編32
「ねえ、ねえ、これ何?……」
長島依子が尋ねる。
「段ボールだよね?……」
西津悠が小首を傾げる。
「昔のアニメのメカみたい……」
沼尾柚亜はスマホで画像をダウンロードして示す。
「犬型の消防車?……」
根岸桜芽が画像と見比べる。
「…………」
段ボールの中で、リオこと野村寿里がサプライズ登場を窺っている。
「……って言うか、これ戦車じゃない?」
多賀冬海が小木津亜弥に語りかける。
「デフォルメしているけれど、BT42だと思うよ」
亜弥が断定した。
隠れたままのリオは大きく頷いた。
バラキ県立伊立第一高等学校の黒檀会館。
さくらロードレースに出場するために集合した7人。
それぞれが工夫を凝らしたコスチュームに着替えた。
長島依子は赤い戦車ジャケットのイギリス系学院、
赤髪のポンコツキャラに扮した。
西津悠はタンクジャケットのアメリカ系大学付属高校、
そばかすの曲者キャラに扮した。
沼尾柚亜はスタイリッシュなイタリア系高校、
ツインテールの総統キャラに扮した。
根岸桜芽は偉大なるソビエト連邦系高校、
金髪碧眼のロシア人キャラに扮した。
多賀冬海は勇猛果敢な日本系学園、
戦車帽のチビッ子眼鏡キャラに扮した。
小木津亜弥は正統ドイツ系学園、
ツンデレの実力派副隊長に扮した。
リオこと野村寿里はフィンランド系高校、
チューリップハットの吟遊詩人に扮した。が、
未だ登場の機会を逃がしたまま段ボールの中。
「結局、誰も魚洗女子学園は選ばなかったのね」
「那々珂先生には敵わないもの」
「それにしても、リオ遅いね……」
「ブラジル系の高校ってあったかな?」
「ポルトガル系は?」
「スペイン系ならあったような……」
『私はここにいるよ!』
満を持してハッチを開けようとするが、開かない。
「まだ時間があるから、もう少し待ってみよう」
「お昼はどこで食べようか?」
「いつもの『パンドゥトロア』は?」
「今日ばかりは超~混雑するよ」
「完走後にあんパン貰えるんだよね」
「バナナと水も貰えるよ」
『ケルコメールバナ~ナス!』
リオの叫びは段ボールにこもって響かない。
「何か、もごもご言っていなかった?」
「このBT42?」
「まさか……」
「まさかだよね……」
「選りによって戦車って……」
「らしいと言えば、らしいけれど……」
「どうしようか」
「このまま連れて行く?」
「取り敢えず持ち上げてみよう?」
「あっ、足が出た!」
「ハッチを開けてみよう!」
「ガムテープで開かないよ~~~」
それでも無理やりハッチを開く。
「あ~ん、怖かった!」
そこにはチューリップハットを被った、涙目のリオ。
『リオ~! 何やってるのよ~!』
一斉に全員が突っ込んだ。




