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072《三文芝居》

本編43

「……笑止千万。

 か弱き町娘を相手に、何を本気で晴貴の進」

「出たな、遥香の丞、

 ここで会ったが百年目、

 いざ尋常に、勝負! 勝負!」

 三文芝居が始まった。


 遥香はイチゴロッキーを持っていた。

「見よ、西中郷流・桜の聖剣の威力を」

 晴貴も鞄から抹茶ロッキーを取り出した。

「小癪な、この高萩流・緑の魔剣を受けてみよ」

 そこかしこで、シン・ロッキーゲームが始まった。


 おやつに持って来た者は自分のロッキーで、

 機内販売はあっという間に売り切れた。

 機内は一気にロッキーバブル。

 小袋ひとつが高価で取引される。


「冬海姉さん、これどうしたの!」

 長島依子が驚く。

 冬海の持ち込み手荷物はロッキーで一杯だった。

「ええと、ロッキーゲームが盛り上がると思ったから……」

「越後屋さん、我々町民に売って下され!」

 西津悠が芝居を続ける。

 我も我もと、購入希望価格がつり上がる。

「いいわよ、定価で構わないわ……」

「待て、待て、待てい!」

「ああ、これはお奉行様」

 沼尾柚亜が、亜弥を女王から町奉行に降格させた。

「その方たち、ロッキー騒動で打ち壊しに及ぶとは不届き千万」

「恐れながら、まだ打ち壊しには及んでいません」

 根岸桜芽が恐縮して言上する。


「そうか、ならば静かに並んで、越後屋から購入せよ」

「じゃあ、みんな、一袋百両で良いわよ……」

「ありがたや、ありがたや」

「待て、越後屋、町人共」

「何でございましょう、お奉行様」

「その方たち、山小屋価格と言うのを知らぬのか?

 ましてやここは雲の上。

 定価で購入とは、いささか甘くはないかのう」

「それではどうすれば良いのでしょうか」

「お上の名において、小袋一つ二百両と定める」

「はは~っ」

「カブキボニータ」

 田舎芝居に、リオが手を叩いて喜ぶ。


『一高生はバカばっかりだ』

 ジャージ姿の骨本勝征は、

 離陸前から狸寝入りを決め込んだ。

 飛行機は苦手、空を飛ぶなんて信じられない。

 トランプもロッキー騒動も素知らぬ振り。

 ロッキーバブルから一転、

 充分な供給を受けて、

 トーナメントが始まったらしい。


 独り喧騒から離れていたが、

 隣の席で小木津亜弥と多賀冬海がヒソヒソ話。

「お奉行様、お陰で金子銀子の雨あられ……」

「なぁに、その方の商才の賜物じゃ」

「いえいえ、お奉行様の口利きあってこそ」

「お主もワルよのう」

「お奉行様こそ……」

 ひとくだり演じてから、二人は素に戻った。


「ごめんね、亜弥、計画通りに行かなかった」

「あの展開では仕方ないわよ、でもありがとう冬海」

「でも、こんなロッキーゲームがあるなんて」

「これって、プロットに使えないかな?」

「こ、これを?」

 冬海は機内の喧騒を見回す。

「うん。一種のバトル物ね。

 口で剣を操る剣士の物語。

 主人公は緑の髪で黒のバンダナ。

 賞金稼ぎの『ろろろろ・ろろ』

 決めセリフは『ロッキーキングに、俺はなる!』

 どうかしら?」

「どうかしらって言われても……」

「旅行中に、ネーム上げておいて」

「う~ん……」


 長島依子が骨本を呼びに来た。

「ポンコツ君、出番だよ!」

 堂々とポンコツって呼ぶな。


 寝たフリを続ける。

 西津悠が頬を叩く。

「熟睡しているみたいだよ」


 沼尾柚亜が大声で伝える。

「ポンコツ君、不戦敗!」


 根岸桜芽が事務的に呼ぶ。

「書道部、ここに墨持って来て」

 一体何をする気だ?


 固く目を閉じたままなので様子が分からない。

 リオが筆にたっぷり墨を含ませる。

「ポンコツ君、動かないから書き易い」

 顔中に落書きされているようだ。

『本当に、一高生はバカばっかりだ!』


 琉球空港では、Jリーグとプロ野球の、

 キャンプ取材に訪れた西中郷素衣とばったり。

 顔中墨だらけの異様な集団に、

 最先端の日焼け止めかと大笑い。

 話を聞いて、初代ロッキークイーンの血が騒ぐ。

 どうやら珍ゲームの発祥は、西中郷と高萩らしい。

 自由行動時間に落ち合う事を約束して、

 遥香と晴貴は観光バスに。



 修学旅行、2日目の夜。

 シン・ロッキーゲームが大流行。

 学年トーナメントの5組予選。

 開催を記念して、エキシビションマッチ。


「15秒は15番!」

 長島依子が数学教師の真似をする。

 腕時計の示す秒数を出席番号に見立てて、

 問題を解かせる生徒を指名する名物教師の真似だ。

 出席番号15番の多賀冬海が前に出る。


「多賀さんの対戦相手は誰でしょうか……」

 西津悠が周囲に問いかける。

 秒数を予想させないための時間稼ぎトーク。


「それでは、今度は私の時計で……」

 沼尾柚亜が自分の腕時計を掲げる。

「49秒は……」

『イチバーン!』

 クラス中が数学教師の真似をする。

 存在しない出席番号の場合は、1番が犠牲になる。

 もちろん相賀晴貴に決まっている。


「ロッキーマスターの相賀君です!」

 根岸桜芽がロッキーを冬海にくわえさせる。

 晴貴はというと、ふらりと冬海の前に立った。

 ロッキーを渡そうとするが晴貴は受け取らない。


 琉球空港で西中郷と遥香に教えられた。

 世の中には、別のロッキーゲームがあるなんて、

 今度は間違えないぞ。


 晴貴は冬海のくわえたロッキーの先端をくわえる。

 亜弥は目を剥いた。

『これこそ私の望んだロッキーゲームじゃない!』

 冬海は焦った。

『いけないわ、亜弥になんて言えばいいの……』

 晴貴の顔が異様に近い。


 晴貴は審判役の野村寿里に横目で合図。

 小首を傾げた帰国子女のリオは声を掛ける、

「両者、礼!」

 動けない二人の代わりに、ぴょこんと礼をする。

「始めっ!」


 晴貴は目礼、冬海は目をパチクリ。

『ありゃ? これってどうやって勝敗を決めるんだ……』

 晴貴は遥香にちゃんと訊いておけばよかったと悔やむ、

 しかし、この戦いに後退はない。

『一種のチキンゲームかな?』

 ならば、ポリ、ポリ。

「おおーっ!」

 見守るギャラリーは唸るしかない。


 ポリ、ポリ、ポリ……。

「おおーっ!」


 ポリ、ポリ……。

 五人娘は目を白黒。

「だ、だめ~!」

「きゃ~!」

「ひゃ~!」

「ぴゃ~!」

「エウタンベンイスタバベイジャーハルキ!」


 ……CHU!

 冬海は昇天、いや、卒倒した。


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