071《修学旅行》
本編42
高鈴めぐみの自主練習は新たなステージに。
「ポーン、サッ!
ポーン、サッ!
ポーン、サッ! サッ!」
自分で工夫してフェイントにも応用してみる。
「ブ~ン、トン、トン、サッ!」
まだまだぎこちないが、
成功イメージはバッチリだ。
「ポーン、サッ!
ポーン、サッ!
ポーン、サッ! サッ!」
多賀冬海は、夏休みから幾つもの、
漫画の新人賞にチャレンジ。
ネームを作ると、小木津亜弥がチェックする。
よっぽどの事がない限り、ダメ出しはしない。
褒めて、褒めて、褒めまくる。
亜弥はとにかく、数を求めた。
完成させては、商業誌からWEBサイトまで、
作風が合いそうな媒体を吟味して応募させた。
年末から結果が出始める。
さすがに全滅、それはまあ仕方がない。
技術的な事に亜弥は口出ししない。
お友達だけど、私は作画のド素人、
その一線は越えちゃいけない。
今日もまた、新しいネームを拝見。
「うん、良いと思うわ……」
亜弥は原稿を揃えて、冬海に返した。
「どんな所が、良かったのかな……」
自信なさ気に冬海が尋ねる。
「起承転結。
少なくともストーリーは破綻していない」
「やっぱり、どこかで見たようなお話だよね……。
私、オリジナルなんて思いつかない」
冬海は自分が最も気にしている点を打ち明けた。
亜弥にプロットのアイデアを求めた。
「何言っているのよ!
私達は、まだ何者でもないのよ!
モノマネ、パクリ、二次創作、
何でもやってみた者勝ち。
どんどんやって、腕を磨いて、
ストーリーなんて後からついてくるわ」
「そう……なんだろうけれど。
何だか私は煮詰まっちゃって、
どうしたらいいか分からなくなっちゃった」
「じゃあ、4コマをやってみましょう」
「それこそ沢山アイデアが必要なんじゃ……」
「忘れちゃだめよ!
私達は、花の女子高校生!
日常ネタなら事欠かないわ。
そうよ、あの五人娘をモデルにしなさい。
題して『ハイテンションFIVE』
日常系よ、日常系!」
「ああ、あの五人娘ね……」
取り敢えずメモを取る。
「高校生ならスポ根モノもアリね……」
亜弥は何か閃いた。
「サッカー部とバレーボール部のエースは二年生の双子。
一年生の訳アリ弟とは、実は三つ子だった。
そこに幼馴染の女の子を絡めた恋愛ものとか、
名付けて『ハイ・タッチ』」
「どこかで聞いたような、
女の子のモデルは亜弥かな……」
「バカね、冬海で良いじゃない。
妄想よ、妄想の具現化なら簡単でしょう!」
「それは恥ずかしいわ」
亜弥は構わず続ける。
「それなら『お姉ちゃんは同級生』ってどうかしら?」
「それもどこかで……」
「いいのよ、元ネタなんて何だって。
4月生まれの姉と、
3月生まれの弟だったらあり得るじゃない」
冬海はペンを走らせる。
「あとは動物とか子供ね。
五つ子の赤ちゃんを題材にした、
『ハイハイFIVE』なんてどう?」
「その発想の秘密を知りたいわ」
冬海は何だか面白くなってきた。
「異世界モノとか、超能力バトルとか、
マシンの擬人化とか、芸能系とか、
今の流行りを追っても目立たないわ、
設定に凝るよりも、まずは王道を行きましょう!」
「この間は、流行りモノに乗っかって、
覇道を行くって言っていたような……」
「要するに、何でもアリなのよ」
「そうだからこそ、
どうしたら良いか悩んでいるんじゃない」
二人は本当に良いコンビだ。
伊立一高の31年振りの修学旅行は琉球県。
学校的には何事もなく、無事終了した。
しかし、小木津亜弥には大きな目的があった。
つき合っているはずの晴貴が、何だか煮え切らない。
休みに誘えば付き合ってくれるけれど、
本当に私を見ているのかしら?
キスの一つも迫ってきてよ!
旅行中には必ず進展してみせるわよ。
まずは最初が肝心だわ。
みんなに二人の関係性を見せつけておかなければ。
冬海、協力ヨロシクね!
バラキ空港から琉球空港まで、4機に分かれて搭乗。
奇数クラスが1・3と、5・7・9に分かれ、
偶数クラスが2・4と、6・8・10で分かれる。
上空で機体は安定、シートベルト解除のサインが出た。
約3時間の濃密な時間。
五人娘が動き出す。
「ねえ、ねえ、5組のみんな、
トランプ大会を開催します!」
「優勝した人には『トランプ王』の称号を与えます」
「ご褒美に、王様として振る舞ってもらいます」
「だから着陸までは、王様の命令は絶対です」
「トゥルンピレイ ウイニースドジョーゴ」
予定通り、亜弥が初代『トランプ女王』に輝いた。
「女王様、何なりと臣下にご命令を」
芝居かかって長島依子がへりくだる。
「そんな、急には思いつかないわ」
「これは陛下、ご遠慮なさることはございません」
西津悠が尚も促す。
「そう言われても、お友達に命令だなんて」
「女王陛下のお優しい心に、感服いたしました」
沼尾柚亜が大袈裟に頭を垂れる。
「どうしたらいいのかしら?」
「それではこうしましょう。
我々が王様ゲームを用意しました」
根岸桜芽が恭しく、箱を捧げる。
「ここから封筒を引けばいいのね」
打ち合わせ通りに印つきの封筒を、
リオこと野村寿里に手渡す。
「発表しま~す。『1番と5番がロッキーゲーム』
ロッキーゲームって、何?」
見え見えのインチキにもかかわらず、クラスがどよめく。
ロッキーゲームと言えば、
チョコでコーティングされた棒状のプレッツェルを、
男女が両側からくわえる、例のアレだ。
「ご、5番と言えば女王様!」
大袈裟に長島依子がおののく。
「あら、わたくしなの、仕方ありませんわ」
「1番は誰! 女王様がお相手よ!」
西津悠が周囲に問いかける。
もちろん相賀晴貴に決まっている。
ロッキーを小袋から取り出して用意する沼尾柚亜。
『冬海、ナイス!』亜弥は心でガッツポーズ。
晴貴はというと、ふらりと女王様の前に立つ。
「ロッキーゲーム……。
やるからには魂、賭けろよ。
俺は手加減しないぞ」
「おおーっ」
またもクラスがどよめく。
『あれれ?』冬海は晴貴の態度に、少し不安になる。
「それでは女王様どうぞ」
根岸桜芽が恭しく、チョコでコーティングされていない部分を、
女王様にくわえさせる。
晴貴は沼尾柚亜から、ロッキーを1本取り上げて、
女王様と同じようにくわえる。
『ありゃりゃ、やっぱりおかしいや』
慌てる冬海を尻目に、
晴貴はリオに目配せ。
意味が分からない帰国子女のリオは、ハタと気付く。
これは日本の伝統武道『口剣道』だ、きっとそうだ。
「両者、礼! 始めっ!」
晴貴はやる気十分、亜弥も釣られて礼を交わす。
2本のロッキーの先端がコツンと触れた。
コツ、コツ。
静かにロッキーの剣が交わされる。
亜弥は目を剥いた。
『これは私の知っているロッキーゲームじゃな~い!』
冬海は焦った。
『いけないわ、これはきっと、あの家族特有の……』
晴貴は殺気を含んだ目で、
互いの間合いを計っていたが……。
「ふん、がっ!」
首をクルリと旋回させると、白刃一閃。
亜弥のくわえたロッキーを根元からへし折った。
「おおーっ!」
見守るギャラリーは唸るしかない。
回転しながら落ちてくる、
折れたロッキーを晴貴は受け取り、ぽりぽりぽり。
「またつまらぬ物を、切ってしまった」
「おおーっ!」
『なんなのこれは、もう台無し……』
冬海は頭を抱えるが、五人娘は大喜び。
「次わたし、次わたし」
「ダメー、私が先よ!」
「私もやりたい!」
「ジャンケンしよう、ジャンケン」
「ケンドーボニータ」
「笑止!」
人垣が割れた。
『今度は何よ……。あっ! お姉様の登場だ』
冬海は諦めた。亜弥には悪いけれど、
成沢遥香が現われたら、可哀想だが亜弥に勝ち目はない。
一度、撤退して態勢を立て直そう。




