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066《亜弥のアルバイト》

番外編29

「あれ、懐かしい。

 この写真どうしたの?」

 王津郵便局の事務室で、

 北バラキ郵便局のリーダーが尋ねる。

「島袋さん、これ、分かるのですか?」

 年末年始のアルバイトに来ていた小木津亜弥が訊き返す。


 父親が勤めていた縁で、

 亜弥は年末の郵便局へ年賀組立アルバイトに来ていた。

 現在では学生の年賀配達アルバイト採用は無い。

 内務作業の年賀組立アルバイトも若干名だ。


 12月24日。

 差出人名のない郵便が亜弥の所に届いた。

 郵便はがきの倍のサイズ。

 長時間露光の星空の写真。

 差出郵便局の消印はなく、

 切手の代わりに「料金別納」のスタンプ。


 成沢遥香や多賀冬海の元にも届いているのがすぐに分かった。

 何となく差出人に心当たりがあったが、

 餅は餅屋、

 確実な手掛かりを求めた。


 定形郵便物なら機械処理によって、

 見えないデータが埋め込まれているのだが、

 定形外郵便物なので手掛かりはないそうだ。


 しかし意外な人物からヒントがもたらされた。

 隣の郵便局のリーダーが、誤送郵便物を持って来ていた。

 琉球県出身の島袋リーダーが目聡く写真を見つけた。


「南十字星だよ。この角度ならずいぶん南方だね」

「琉球県から差し出されたのですか!」

「いや、差出場所までは分からないけれど、

 映っているのは南十字星で間違いないよ」

 島袋リーダーは懐かしげだ。


「転校してしまった友人からだと思うのですが、

 どこに行ったか手掛かりが全くなくて……」

「何か事情があるのかな。

 でもこの写真で分かるのは、

 国内なら最南端に近い空。という事だけだよ。

 個人情報の特定には至らないし、

 もし分かったとしても……」

「ああ、ごめんなさい。

 そんな意味じゃないんです。

 個人情報の保護は重々承知しています」



 亜弥は話題を変えた。

「1月の下旬に、修学旅行で琉球県に行くんです」

「そう、そりゃいいね」

「南十字星って見えるのですか?」

「その時季なら真夜中だけど、

 南の水平線近くに見えるはずだよ。

 ニセ十字もあるから気をつけてね……」

 島袋リーダーは何かを思い出した。

「あれ、窪田リーダーって伊立一高OBだよね、

 その当時も修学旅行は琉球県だったのかな?

 もしかしたら琉球ですれ違っていたかも」


 王津郵便局のリーダー窪田は47歳。

「一高の先輩だったのですね!」

「う~、あ~、言っていなかったかな」

「修学旅行は31年振りの復活らしいのですが、

 窪田先輩の時はまだ修学旅行あったのですか?」

「ええと、それは、その……」

 亜弥はおそるおそる尋ねた。

「あの……、『噂』って本当なのですか?」

 窪田は冷汗を垂らす。

「……修学旅行が取り止めになったきっかけです」

「知らない……」

「その事件でバラキ県全体が斑鳩県から締め出しを食ったという」

「何のことかな……」

「国宝の白壁に『バラキ県立伊立第一高等学校参上』って落書きを……」

「書いたのは俺じゃない! じゃなくて……」

 その場にいた全員が沈黙した。

 誰もが『聞かなかった事にしよう』と心に決めた。


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