055《マックで待つ》
番外編27
成沢遥香は5分ほどさめざめと泣いた。
西中郷素衣と高萩直は静かに見守る。
落ち着いた所で、高萩がドリンクを差し出す。
一気に飲み干す遥香。
運動して、涙を流してお腹が空いた。
西中郷からハンバーガーを受け取るとむさぼるように食べた。
「そっか、林檎ちゃんは行っちゃったのか」
「どこに行くかは教えてくれないんだ」
「とにかく、落ち着いたら連絡くれるって……」
どうしても伏し目がちになる。
「晴貴の様子は?」
「傷心の晴貴は私が慰めてあげよう」
「お別れは言えなかったけれど、
一目、林檎には逢えたみたい……」
「葡萄の方は?」
「お兄様とは逢えたのか?」
「同じだと思うけど……」
ニヤニヤ笑いの西中郷と高萩。
「晴貴じゃなくて」
「遥香は会えたんだろう?」
「えっ、私……そりゃあ、伊立駅の高速乗り場でサヨナラって……。
ちょっと! 誤解しないでよ、そんな訳ないわ!」
「どうだか?」
「怪しいな~」
「遥香のタイプじゃないの?」
「晴貴とは違って、奴は大人の色気を醸し出していたからな」
「う~~~」
遥香はじっと耐えた。
この手のイジリはムキになったら負けだ。
多分、私の気を紛らわせようとしてのイジリだが、
母親のチームメート達は案外しつこい。
この場限りで済めばいいが、晴貴に誤解されたらなんか悔しい。
皆に言いふらされたらそれこそ面倒だ。
とにかくポテトをポリポリポリ。
お姉さま達の分までポリポリポリ。
そんな遥香を二人は優しい目で見守る。
「遥香もまだ食べられるだろう、何にする?」
お代わりを買いに行く西中郷。
「晴貴の分も適当にね、それにしても遅くないかな」
晴貴を気遣う高萩に遥香が答える。
「リオからのメールではとっくに王みか神社は通過しているよ」
途中で出逢った野村寿里に晴貴の通過を予告したら、
面白がって待ってくれていたらしい。
「あ、桜芽隊員からメール」
知らせを受けて下り畑金停留所に戻った根岸桜芽からの連絡。
『相賀君、リオとタンデムで今、通過』
恐るべき、リオこと野村寿里。その行動力は侮れない。
長い下り坂の底あたりにある自動車学校を過ぎて、
再び長い坂を登ればマックにつく。
あと5~6分といったところか。
「あ、お兄様からメールだ」
「それ見たことか!」「ヒュ~、ヒュ~」
「バカ言わないでよ、もう」
伊師葡萄からのメールで盛り上がった所にようやく晴貴が到着した。
連れが4人もいた。
根岸桜芽が自転車のタンデム。
リオとその弟の万里雄はここまで一緒に走ってきたらしい。
道理で時間が掛かったはずだ。
おまけに逆方向の山塙停留所から、西津悠まで歩いて来ていた。
「みんな良く来た、ご馳走するぞ!」
「ありがとうございま~す」
「お腹空いた~~~」
「いっただっきま~す」
「ヴァーモスコメール」
賑やかな朝食会となった。
遥香がそっと晴貴に葡萄からのメールを示した。
じっくり読み込む晴貴。
「何見ているの?」
興味を示すリオ。
「遥香の彼氏だよ!」
ここぞと茶化す西中郷。
『うっそ~、見せて、見せて!』
「ハル姉ェ、そうだったのか!」
「うっさい、バカ晴貴!」(も~う、最悪!)




