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054《冬海の機転》

番外編26

 多賀冬海はスマホを握りしめて大田和町交差点の角へ走る。

 成沢遥香が高速バスを追いかけている事を知り、

 中田内バス停への到着をメールで知らせたところ、

 遥香から返信が届いた。


『晴貴が海岸線から向かっているはずなの、間に合った?』


 息を切らして交差点角まで辿り着く。

 こちらに向かって走り迫る相賀晴貴の姿を認めた。


 早く! 早く!

 冬海は大きく手を振る。


 常磐高速道路、伊立南多田IC直前の中田内バス停。

「東京駅行き高速バス、出発します」

 アナウンスが流れ、ドアがゆっくり閉まり出す。

 駆けつけた見送りの女子たちが涙ながらに手を振り、

 車中から伊師林檎がそれに応える。


 このままじゃ間に合わない!

 冬海は大きく右に手を振る。

 ショートカットして!


「相賀君急いで!」

 冬海の叫び声に、

 手を振る女子たちが一斉に振り向く。

 大田和町交差点の角で、

 冬海が両手を大きく右に振っている、

 バスは静かに、動き出した。

 冬海は何かを確認すると、

 トコトコとバス停に向かって走り出した。

 途中で足がもつれて転倒する。


 10分後。


 他の見送り生徒たちはもういない。

 残ったのは冬海のみ。

 晴貴は立ち尽くしたまま動かない。


『お父さんに、送ってもらおうかしら』

 無理を言って叩き起した父を待たせてある。

 しかしなかなか晴貴に声を掛けられない。


 再びメールの着信音。

『間に合った?』


 何気なく振り返ると、

 大田和町交差点の向こう側に遥香の姿。

 冬海は両手で頭上に大きく丸を作る。

 遥香が手を振って応えた。


 見送りに行くと信じて、迎えに来るなんて、

 もう、私の出番は無いわね。

 結局、晴貴には声を掛けずに、

 冬海は駐車場で待つ父の車へ向かう、


 遥香は駐車場に寄り道して冬海とハイタッチ。

「冬海ありがとう。あとでまた電話するね!」

 運転席に向かい、遥香がぺこりと頭を下げた。

 冬海の父が笑顔で手を振っている。


 父親は文句も言わずに付き合ってくれた。

「転んで怪我しなかったか?」

「……」

「お友達には、お別れは言えたのかな?」

「……」

「今の娘と、あのイケメンは双子なんだって?」

「……」

 突然、叩き起こされたものの、

 一瞬で娘の要望を理解した父。


「送ってあげなくてもいいのかな?」

「……うん、いいの。

 お父さん、お休みの日なのに、朝早くからごめんなさい」

「娘とのドライブだと思えば、何てことないさ。

 朝ごはんまだだろう?」

「うん、お腹すいちゃった」

「それじゃ、コンビニに寄って行こうか」

「お父さん、ありがとう」


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