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005《中学二年の夏休み》

番外編02

 成沢遥美の父、遥香の祖父は合気道の達人。

 下野県で道場を開いている。

 毎年、お盆の夏合宿にはみんなで参加していた。

 道場主の孫ら4人は、蚊帳を吊った4畳半の部屋で就寝。


 中学二年の成沢遥香と、小学三年の相賀媛貴が向かい合わせで、

 媛貴の後ろに小学六年の相賀結貴が、

 その後ろに中学二年の相賀晴貴が、同じ姿で寝ている。


 真夜中。

 玄関先で飼い犬ハルクの耳が、ピクリと動いた。


 9歳の媛貴が、寝ぼけまなこ。

「おお兄ちゃん、おしっこ」

 11歳の結貴を踏みつけながら、

 13歳の晴貴を揺さぶる。

「ほい、ほい……」

 晴貴がゆっくり上体を起こす。

「待ちなさい……」

 13歳の遥香が目を覚ます。

「私が連れて行く……」

「媛貴、お姉ちゃんが連れてってくれる……」

「うん……」

 ボーっとしながら、遥香と媛貴が蚊帳をくぐり抜け、

 手をつなぎながらトイレに向かう。

 晴貴は再び目を閉じる。

 結貴は何も知らずに爆睡中。


 遥香と媛貴が戻ってきた。

 晴貴と結貴は静かに寝息を立てている。


 媛貴はコテンと、元の位置に戻り再び夢の中。

 遥香は同じ姿勢で寝ている3兄妹の様子に吹き出す。


 晴貴の横顔に目が止まった。

 視線は唇に固定。

 四つん這いで、媛貴と結貴を跨ぐように接近。

 しばらく晴貴の様子を観察。

 熟睡しているようね。

 蚊帳の外を見回し、誰もいないのを確認。


 注意深く晴貴に顔を近付けて、

 静かに一瞬だけ唇を合わせてみた。

 ゆっくり元の位置に戻る。


 あぐらをかいて腕組みをして、小首を傾げる遥香。

『う~む』

 幼いチュウなら何度もしたけれど、

 大人のキスとはどう違うのかしら?


 再びゆっくりにじり寄る。

 数秒間、寝ている晴貴と唇を合わせる。

 胸が結貴の身体に当たるが気にしない。


 またしても小首を傾げる遥香。

『なんだかな~』

 期待したようなトキメキなんて感じない。


 もう一回だけ、

 少し長めに、唇を合わせた。

 晴貴はピクリとも動かない。

 のしかかられた結貴は、

 良い夢でも見ているのかニヤケ顔。


 腕組みをしながら考える。

『こんなものなのかしら?』

 憧れのキスとは程遠い。

 相手は寝ているし、

 晴貴じゃ意味が無いのかな。


『う~ん、う~ん』

 二、三度首を傾げると、眠気が蘇ってきた。

 大きくあくびをすると、横になって目を閉じる。

 遥香はすぐにスースーと寝息を立て始める。



 そして……、

 しばらく息を止めていた晴貴の、

 全身の毛穴から汗が噴き出した。


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