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047《以心伝心》

番外編23

 Aコート 決勝戦 小久保中vs賀多中

 主審・塩野、副審1・相賀、副審2・藤岡 第4の審判員・中西


 14時キックオフ。

 事前に入念な審判員打ち合わせが行われた。

 相賀晴貴の準決勝での課題について、塩野はただ一言。

「主審である私の事を常に意識していて下さい」

 抽象的な指示に少々戸惑う。

「副審2の私の事も意識していてね」

 どういう意味だよ、藤岡三沙は悪乗りが過ぎるぞ。


 Jリーグでも主審を務める塩野の存在感は圧巻だった。

 副審のアシストなど必要ないのでは、

 そう思えるほどの貫録だった。

 晴貴はディフェンスの最終ラインキープと、

 タッチライン際のボールアウトの確認以外にも、

 主審の動きを見落とすまいと必死だった。

 特にホイッスルを持った右手に注目した。

 しかしそれは少々ピントがずれていた。


 賀多中のゴールキック。

 小久保中は浅い最終ラインをキープしている。

 センターラインから5メートルほどの範囲。

 賀多中FWと小久保中DFは駆け引きを繰り広げる。

 キックと同時に賀多中FW二人がオフサイドポジション。

 一瞬我慢して、ボールが渡るのと同時に晴貴はフラッグを上げた。

 しかし。

 主審の塩野は旗を降ろせと手で合図。

 ゴールキックからのボールはオフサイドの対象外だ。

 何事もなかったかのようにプレーは続く。

 晴貴は出遅れを取り戻そうと必死でボールを追う。

 小久保中DFがボールをクリア。

 次の展開で主審がスッと近寄りながら小声で、

「ゴールキックから直接のボールはオフサイドにはなりません」

 理解していたはずだが、初歩的なミスを犯した。

 アシスタントレフェリーが主審のアシストを受けてしまった。


 主審越しに副審2の姿も視界に入る。

 藤岡と目が合った。

 遠くだが口角が上がるのが分かる。

 アイツ笑いやがった。

 ムッとしたのが伝わったのか、

 年下の三級審判員は慌ててそっぽを向く。

 わざとらしい仕草。

 ん? 待てよ……。


 ハーフタイムで戻った主審に素直に詫びる。

 塩野は笑ってスルー。

「一度失敗すれば、次からは間違えませんよ」

 女子高校生審判員がここぞと晴貴をいじる。

「私の『ガンバレ』は伝わったかな?」

「小馬鹿にしていなかったか?」

「そんな訳ないよ~~~だ」

「やっぱりバカにしている」

「ルールブックはちゃんと読まなくっちゃね、

 それからコッリーナさんの本も必読」

 わざわざ鞄から2002年日韓ワールドカップで、

 決勝戦の主審を務めた、

 スキンヘッドのイタリア人審判員の著書を見せつける。


「もっと目を合わせましょう」

 柔和な表情で塩野が要請した。

 アイコンタクトの事だとは分かる。

 前半も見ていたつもりだが、それは晴貴の勘違いだった。


 後半開始直前、

 主審はキックオフする選手に何か語りかけている。

 次に副審2に目をやる。

 藤岡は決められたシークレットサイン。

 続けて副審1とアイコンタクト。

 晴貴もシークレットサインを返す。

 塩野は更に第4の審判員や両チームのGK、ベンチにも視線を飛ばす。

 晴貴はまたもや主審越しに副審2と目が合った。

 藤岡はさり気なくサムズアップ。

『ガンバレ!』と、今度はハッキリ認識できた。

 そうか、アイコンタクトとはそういう事か。

 意識していると塩野は頻繁にこちらを見ていた。

 これなら離れていても、最低限の会話ができる。

 晴貴は初めて審判団チームの結束を理解した。


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