045《白のレフェリーシャツ》
番外編21
6月下旬。伊立市里山若者センター。
二日目の市内中学総体のサッカー会場。
バラキ県職員の塩野は決勝戦の主審を依頼されていた。
伊立第一高等学校OBの一級審判員。
Jリーグの主審も担っている。
毎回、決勝戦の主審を打診され、
都合がつく限り受けるようにしていた。
幸いなことに職場も同僚も審判活動を理解してくれる。
それに伊立市のサッカー界には一高OBが大勢いた。
高校時代に直接触れ合った、先輩・同期生・後輩だけでも、
十数名が高校や中学の教師として伊立に戻っている。
社会人として審判活動を行っている者もいて、
自分の経験を伝える場としても貴重な機会だった。
塩野は自家用車で早目の会場入りをした。
決勝戦を担当するには正午に到着すれば充分だが、
第一試合が終わる前に会場入り。
Bコートの主審は伊立一高の一学年先輩。
Aコートの主審が後輩で現役の高校二年生。
なかなか面白い存在だと聞いている。
助手席の連れが目を輝かせる。
「白のレフェリーシャツって初めて見ました。
しかも副審まで揃っているなんて素敵」
同乗してきたのは藤岡三沙。
三級審判員、白藤二高の一年生。
小学校6年生で四級審判員の資格を取った。
こちらもなかなか面白い逸材だ。
大会を仕切るのは中体連サッカー審判部の副部長、
沢平中の中西も伊立一高の一学年先輩。
先生方と挨拶を交わし、連れの藤岡を紹介。
伊立に連れてきたのは初めてだが、
流石に審判員とは顔見知りばかり。
トーナメント表と審判割当表を確認。
決勝戦 主審・塩野、副審1・相賀、 副審2・中西※
準決勝1 主審・相賀、副審1・江上※、副審2・横田※
準決勝2 主審・飯島、副審1・川村※、副審2・野田※
※印は試合の勝敗によって変わるため今のところ仮。
塩野が責任者の中西に申し出た。
決勝戦の副審2に藤岡を、
準決勝1の副審1に自分が、副審2に藤岡を、と。
正直、トーナメントの審判員のやりくりにはいつも苦労している。
中西は快諾した、上級審判員と組むのは相賀のためになる。
第一試合をそつなく終えると相賀晴貴は塩野に挨拶。
勿論、大先輩にはユース時代にも何度か世話になっている。
準決勝では副審1に入ってくれる、いつも以上に気合を入れねば。
副審2の女子高校生は一年生ながら三級審判員。
そんな人が実際いるんだ。
白藤二高は女子高だがサッカー部は無いそうだ。
今日は試験(採点)休みで参加できた。
学校はあまり審判活動を理解していない。
人見知りしない、おしゃべりさんだ。
一級審判員の大先輩・塩野と、
一学年下の女子三級審判員・藤岡。
第4の審判員には二級の大先輩・中西。
主審は四級審判員の晴貴だが、
物おじすることなく打ち合わせを行う。
すべてこの二日間で学んだ事ばかりだが、塩野は感心した。
付け焼刃の知識で精一杯やっているのは明らかだが、
要点は外していない。
不足部分は恐らく知らないだけ。
プレーヤーとしても一目置いていたが、
審判員としても育て甲斐がありそうだ。
冗談交じりで自分に何かあったら、塩野が主審に、
中西が副審1に、という要請までしてきた。
これは決勝戦前の打ち合わせは手抜きできないな。
「私、この凄いメンバーを従えて、
あんなに落ち着いて打ち合わせなんてできませんよ。
審判員を始めたばかりだなんて信じられない。
あの人、とても面白い人ですね」
藤岡が無邪気に笑う。
『君もとても面白い逸材だよ』
塩野は思った、バラキ県の審判界の将来は明るい。




