044《派遣審判員》
番外編20
6月下旬。伊立市里山若者センターは芝のコートが2面。
二日間に渡り、市内中学総体のサッカー会場となる。
伊立第一高等学校二年生の四級審判員、相賀晴貴は、
正式な派遣依頼を受けて公休扱いで参加した。
最初の割り当てはAコート第一試合の副審2。
黒のレフェリーシャツは、
一高サッカー部の庄山監督から譲ってもらったもの。
主審は市役所職員の古川、協会派遣の二級審判員。
副審1は慈久中の川村、三級審判員。
古川と一緒にウォーミングアップ。
グランドチェックのやり方を覚え、
本格的な打ち合わせを行う。
次の割り当てはBコート第三試合の副審1。
黒のパンツとストッキングは自前で揃えた。
主審は沢平中の中西、一高OBで二級審判員。
副審2は浦豊中の野田、四級審判員。
野田は転勤前に賀多中バレーボール部の顧問だった。
勿論、晴貴とは顔見知りで、同じ審判員一年生。
ベテランの中西も短時間ながら、しっかりした打ち合わせを行う。
合間に昼食を取りながら、
他の試合の主審の動きを観察。
時折、各校の校長や、サッカー協会の役員などが視察に訪れる。
その都度、晴貴は紹介された。
Aコート五試合目の副審1が初日最後の割り当て。
主審は郵便局員の飯島、協会派遣の二級審判員。
副審2は里山中の江上、四級審判員。
打ち合わせでは、丁寧にシークレットサインを教わった。
試合中にイエローカードが出たので、
詳細な報告書の書き方を見る事ができた。
この大会では省略化されていたが、
通常の審判報告書の書き方も教えてもらった。
会場までは伊立電鉄バスで来たが、
帰りは賀多中の保健教諭、俵が自家用車で送ってくれた。
総体では各競技、各会場に中学校の保健教諭が派遣されている。
二日目も賀多中待ち合わせで送迎してくれる事になった。
晴貴は帰宅すると審判服等を自分で洗濯。
まだ一着しか持っていないので明日までには乾かさなければならない。
スパイクも簡単な手入れ。
明日は主審が割り当てられている。
二日目最初の割り当てはAコート第一試合の主審。
副審1は浦豊中の野田、四級審判員。
副審2は王十中の横田、四級審判員。
中体連サッカー審判部の副部長、沢平中の中西が、
審判インストラクターとして参加。
打ち合わせ中に問題が一つ発生。
対戦するチームのユニフォームが「紺色」と「黒/黄」の虎縞。
「これは使えませんか?」
晴貴が示したのはバレーボール用、
JVA公認のレフェリーシャツ。
白を基調に紺のライン、胸にJVA公認の刺繍。
「う~ん、分かりやすいとは思うけれど……」
インストラクターの中西は思案顔。
「私も同じ物を持っているのですが……」
申し出たのは副審1の野田、元バレーボール部顧問。
「あの、実は、私も……」
副審2の横田までが変な事を言い出した。
横田もバレーボール部の顧問を経験している。
「見事に揃いましたね、これよりはましかも」
口をはさんだのは中西とは一高で同級生だった、
Bコートで主審を務める郵便局員の飯島。
手には黄色のレフェリーシャツ。
場合によっては晴貴に貸すつもりだった。
ものわかりのよい中西が決断する。
「審判ワッペンでJVA公認の刺繍を隠せば何とかいけるかな」
ここぞとばかりに、保健教諭の俵がしゃしゃり出る。
「安全ピンで留めましょう」
かくして、白シャツの審判団がAコート第一試合を見事に仕切った。
活きの良い高校生審判員がいる。そう聞いて早目に会場に着いた、
中西と飯島の一年後輩、一級審判員の塩野が目を丸くしていた。




