表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/109

043《四級審判員》

本編26

 日本サッカー協会認定の四級審判員になった相賀晴貴は、

 精力的に審判活動を行っていた。

 土曜日は、主に中高生の練習試合の主審。

 日曜日はサッカー協会審判部から割り当てを受け、

 県リーグや市民リーグの副審。

 副審を一日に2~3試合行う事もあった。

 6月下旬の市内中学総体では、

 正式な派遣依頼が学校長あてに届き、

 公休扱いで参加した。


 大会の運営は顧問の教師が主体だが、

 全員が上手な審判員という訳ではない。

 サッカー協会審判部から審判員が派遣されるが、

 平日の大会なので、参加者は限られる。

 いつも大会を手伝っているのは、

 高校教員、市役所職員、郵便局員、

 そしてスポーツ店主などの自営業者、

 予め休みを合わせて参加してくれるボランティアだった。


 晴貴は初日、一試合おきに副審を3試合、

 全て派遣の二級審判員主審と組まされた。

 2日目は第一試合の主審を任せられた、

 その結果を見た上で、準決勝のひとつに抜擢、

 決勝戦では伊立一高サッカー部の先輩でもある、

 現役の一級審判員と組んで副審。


 上級の審判員と組むのは勉強になった。

 ウォーミングアップの方法も、

 一緒に身体を動かしながら覚えた。

 打ち合わせも入念に行う。

 こういった大会では、自チームが試合中の監督が、

 次の試合の審判員という事も多い。

 派遣審判員からは色々な事を教えられた。

 時計や笛を2セット持つ事の意味。

 主審にアクシデントが生じた時に、

 誰が代わって主審を務めるかも予め指名される。


 決勝戦のハーフタイム、Jリーグでも笛を吹く主審から、

「もっと目を合わせましょう」

 と、要請された。

 後半、意識していると、

 主審は頻繁にこちらを見ている。

「そういうことか」

 審判員チームのアイコンタクト。

 晴貴は即座に理解した。

 主審は副審だけではなく、

 両チームのベンチや、大会本部席にも目を配っている。


 シークレットサインも教わった。

 決まったサインがある訳ではなく、

 試合前の打ち合わせで決められる。

 キックオフ前に副審が確認する事項を、

 必ず伝えた上でなければ試合は開始されない。

 アクシデントを認めた時のサイン。

 主審が背を向けている時の交替要請の有無。

 PKかどうか微妙な位置で起きた反則の伝達方法。

 得点を認めた時の動き方。

 得点を認められない時の動き方。

 判定に自信がない時の旗の上げ方。

 経過時間の注意喚起。

 アディショナルタイムの伝達方法。

 試合中にこんな事が行われていたのかと、

 晴貴は目の覚める思いだ。


 晴貴の審判員としての評価は高かった。

 ジュニアユースレベルでは充分な働きだった。

 6月末の県北中学総体にも呼ばれた。

 ここでは全て主審を任された。

 場合によっては上級審判員が副審を務める。

 その際は試合前に、必ずひとつ課題を与えられた。


 打ち合わせは主審の主導で行う。

 大会規定や試合時間。

 交替人数や飲水タイムの有無。

 同点で試合が終わった時に、

 延長かPK戦か引き分けか。

 PK戦がある時は役割分担。

 試合球や対戦チームのユニフォーム確認、

 キックオフチームの選定、選定方法。

 累積警告者の有無。

 主審から特に依頼したい事があれば要請しておく。

 対戦チームの特徴を情報交換する事もある。


 公式戦の審判員を務めると、

 試合終了後に『審判報告書』の提出が義務づけられている。

 試合中にイエロー・レッドカードを出した時は、

 警告・退場についての詳細な報告もしなければならない。

 先輩審判員たちが必ず感想を述べてくれた。

 概ね2試合おきに割り当てされたが、

 ジュニアユースの試合では、

 体力的な問題は感じない。

 ルールブックをきちんと読んだのは、

 この機会が初めてだった。


 最初は借り物のレフリーシャツだったが、

 自前で黒のシャツ、パンツ、ストッキングを買い揃えた。

 公式戦を担当すると僅かながら審判手当が支給される、

 費用弁償という扱いだ。

 審判用具としては、

 レフリーシャツ、パンツ、ストッキング、

 審判員のエンブレム、シューズ、スパイク、

 ホイッスル×2、時計×2、鉛筆×2、ハンカチ、

 記録用紙、警告・退場カード、カードケース、トス用コイン、

 フラッグ、ボールプレッシャーゲージ、空気ポンプ。

 はんこ、審判手帳も欠かせない。


 最初は決して乗り気ではなかった晴貴だが、

 徐々に審判活動の面白さに目覚めた。

 同じピッチに立つ以上、

 審判団とは第3のチームだ。

 勝ち負けはないが、上手く出来て当たり前。

 毎回シビアな結果が待ち受ける。

 晴貴が目標に掲げたのは、

「少なくともユース世代には走り負けない」事。

 相手が大学生だろうが社会人だろうが、

 舐められないようにスピードも磨いた。

 バラキ県内のサッカー界では、

 すぐに晴貴の存在は知られるようになった。



 伊立市内の高等学校対抗で、

 冬に駅伝大会が開かれる事になった。

 一高の関校長が主導して、

 男女の第一回大会が開かれる。

 陸上部から各運動部へ、

 駅伝選手派遣の依頼があった。

 サッカー部主将・代鱈は即決した。

「相賀、手伝ってこい」

 陸上部主将はここぞとばかりに大張り切り。

 参加選手別に毎日のトレーニングメニューを作成し、

 週一回の合同練習日には懇切丁寧にフォーム指導。

 ちゃっかり女子チームには成沢遥香も参加。

 だってシェーンハイトの練習をサボれるじゃない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ