043《四級審判員》
本編26
日本サッカー協会認定の四級審判員になった相賀晴貴は、
精力的に審判活動を行っていた。
土曜日は、主に中高生の練習試合の主審。
日曜日はサッカー協会審判部から割り当てを受け、
県リーグや市民リーグの副審。
副審を一日に2~3試合行う事もあった。
6月下旬の市内中学総体では、
正式な派遣依頼が学校長あてに届き、
公休扱いで参加した。
大会の運営は顧問の教師が主体だが、
全員が上手な審判員という訳ではない。
サッカー協会審判部から審判員が派遣されるが、
平日の大会なので、参加者は限られる。
いつも大会を手伝っているのは、
高校教員、市役所職員、郵便局員、
そしてスポーツ店主などの自営業者、
予め休みを合わせて参加してくれるボランティアだった。
晴貴は初日、一試合おきに副審を3試合、
全て派遣の二級審判員主審と組まされた。
2日目は第一試合の主審を任せられた、
その結果を見た上で、準決勝のひとつに抜擢、
決勝戦では伊立一高サッカー部の先輩でもある、
現役の一級審判員と組んで副審。
上級の審判員と組むのは勉強になった。
ウォーミングアップの方法も、
一緒に身体を動かしながら覚えた。
打ち合わせも入念に行う。
こういった大会では、自チームが試合中の監督が、
次の試合の審判員という事も多い。
派遣審判員からは色々な事を教えられた。
時計や笛を2セット持つ事の意味。
主審にアクシデントが生じた時に、
誰が代わって主審を務めるかも予め指名される。
決勝戦のハーフタイム、Jリーグでも笛を吹く主審から、
「もっと目を合わせましょう」
と、要請された。
後半、意識していると、
主審は頻繁にこちらを見ている。
「そういうことか」
審判員チームのアイコンタクト。
晴貴は即座に理解した。
主審は副審だけではなく、
両チームのベンチや、大会本部席にも目を配っている。
シークレットサインも教わった。
決まったサインがある訳ではなく、
試合前の打ち合わせで決められる。
キックオフ前に副審が確認する事項を、
必ず伝えた上でなければ試合は開始されない。
アクシデントを認めた時のサイン。
主審が背を向けている時の交替要請の有無。
PKかどうか微妙な位置で起きた反則の伝達方法。
得点を認めた時の動き方。
得点を認められない時の動き方。
判定に自信がない時の旗の上げ方。
経過時間の注意喚起。
アディショナルタイムの伝達方法。
試合中にこんな事が行われていたのかと、
晴貴は目の覚める思いだ。
晴貴の審判員としての評価は高かった。
ジュニアユースレベルでは充分な働きだった。
6月末の県北中学総体にも呼ばれた。
ここでは全て主審を任された。
場合によっては上級審判員が副審を務める。
その際は試合前に、必ずひとつ課題を与えられた。
打ち合わせは主審の主導で行う。
大会規定や試合時間。
交替人数や飲水タイムの有無。
同点で試合が終わった時に、
延長かPK戦か引き分けか。
PK戦がある時は役割分担。
試合球や対戦チームのユニフォーム確認、
キックオフチームの選定、選定方法。
累積警告者の有無。
主審から特に依頼したい事があれば要請しておく。
対戦チームの特徴を情報交換する事もある。
公式戦の審判員を務めると、
試合終了後に『審判報告書』の提出が義務づけられている。
試合中にイエロー・レッドカードを出した時は、
警告・退場についての詳細な報告もしなければならない。
先輩審判員たちが必ず感想を述べてくれた。
概ね2試合おきに割り当てされたが、
ジュニアユースの試合では、
体力的な問題は感じない。
ルールブックをきちんと読んだのは、
この機会が初めてだった。
最初は借り物のレフリーシャツだったが、
自前で黒のシャツ、パンツ、ストッキングを買い揃えた。
公式戦を担当すると僅かながら審判手当が支給される、
費用弁償という扱いだ。
審判用具としては、
レフリーシャツ、パンツ、ストッキング、
審判員のエンブレム、シューズ、スパイク、
ホイッスル×2、時計×2、鉛筆×2、ハンカチ、
記録用紙、警告・退場カード、カードケース、トス用コイン、
フラッグ、ボールプレッシャーゲージ、空気ポンプ。
はんこ、審判手帳も欠かせない。
最初は決して乗り気ではなかった晴貴だが、
徐々に審判活動の面白さに目覚めた。
同じピッチに立つ以上、
審判団とは第3のチームだ。
勝ち負けはないが、上手く出来て当たり前。
毎回シビアな結果が待ち受ける。
晴貴が目標に掲げたのは、
「少なくともユース世代には走り負けない」事。
相手が大学生だろうが社会人だろうが、
舐められないようにスピードも磨いた。
バラキ県内のサッカー界では、
すぐに晴貴の存在は知られるようになった。
伊立市内の高等学校対抗で、
冬に駅伝大会が開かれる事になった。
一高の関校長が主導して、
男女の第一回大会が開かれる。
陸上部から各運動部へ、
駅伝選手派遣の依頼があった。
サッカー部主将・代鱈は即決した。
「相賀、手伝ってこい」
陸上部主将はここぞとばかりに大張り切り。
参加選手別に毎日のトレーニングメニューを作成し、
週一回の合同練習日には懇切丁寧にフォーム指導。
ちゃっかり女子チームには成沢遥香も参加。
だってシェーンハイトの練習をサボれるじゃない。




