042《大来軒の焼肉どんぶり》
番外編19
第37回伊立市パンポン大会終了後。
国道245号線沿いにある白檀幼稚園。
伊立電鉄線鮎沢駅から歩いてきたのが、
西中郷素衣、高萩直、成沢遥香、
長島依子、西津悠、沼尾柚亜、根岸桜芽、野村寿里。
伊師林檎に葡萄お兄様。
そして西中郷にしなだれ掛かられた相賀晴貴。
BKBを乗せた観光バスが傍らを走り抜けて行く。
幼稚園の隣が大増夫妻の経営する、
伊立北部シュトゥルム御用達の中華料理店。
西中郷の芸能界パンポン女王決定戦優勝、
高萩の準優勝を祝っての食事会。
遥香と晴貴が緊急招集された。
ビギナーズ部門一回戦敗退で野次馬化していた五人娘。
伊師兄妹まで芋づる式についてきた。
『大来軒』二階の座敷席に落ち着くと、
予め頼んでおいた特盛の『焼肉どんぶり』がすぐに出てきた。
「素衣お姉ちゃん優勝おめでとう。
直お姉ちゃん準優勝おめでとう」
遥香が乾杯の音頭をとる。
西中郷と高萩もノンアルコールのソフトドリンク。
夜のスポーツニュースは氷戸放送局から送る手筈。
僅かな時間だが身内だけのささやかな祝勝会だ。
大盛丼飯の上に、こんもりとキャベツの千切り。
そこに生姜ベースの甘辛いタレで焼いた豚肉。
たっぷりかけられたタレとキャベツのシャキシャキ感が癖になる。
「やっぱり伊立に来たらこれだね」
「久し振りに素衣と真剣勝負したね」
「お姉ちゃんたちパンポンは何年振り?」
「こ、これは美味しい!」
「タレが絶妙!」
「レシピ知りたい!」
「家族と食べに来よう!」
「エゴストウゾ!」
「お兄様、林檎はこんなに食べきれないかもしれません」
「その分は俺が頂く事にしよう」
西中郷が晴貴をいじる。
「晴貴、ア~ンしてあげるよ!」
「いいから、早く食べないと!」
全員がどんぶりを平らげたが、まだ物足りない食べ盛りばかり。
女将さんが注文をとる。
「ニラレバ!」「餃子!」「炒飯!」
「酢豚!」「八宝菜!」「五目焼きそば!」「中華丼!」「シュハスコ!」
「杏仁豆腐」「青椒肉絲」
西中郷は晴貴に言わせない。
「晴貴は焼肉どんぶり!」「俺にも選ばせろ、麻婆豆腐!」
お代わりも早々に平らげ、くつろぐ一同。
キャスター二人は、夜の生放送へのリミットが迫る。
しかし、一向に切り上げる素振りもない。
「この私が、あんな小娘共に負ける訳が無い……」
「それよりも、腹ごなしに今からリベンジマッチを……」
「いい加減にしないと、番組に差し支えるわよ」
「お姉さんたちスポーツニュースのキャスターなんだよね」
「現役時代は凄い選手だったんだって」
「パンポンの?」
「バレーボールの日本代表!」
「セレソンドジャポー!」
「西中郷さんと高萩さん、今夜の番組は氷戸からですよね」
「そろそろ向かわないと間に合わないんじゃないか」
西中郷が晴貴を茶化す。
「晴貴、優勝のご褒美に今夜は泊まって行っていい?」
「いいから、早くしないと番組に穴が開くぞ!」
一同がワイワイガヤガヤ、二階の座敷から一階に下りてくると、
そこには伊立第一高等学校、英語教師の佐貫那々珂。
彼氏と一緒に食事中。
「ナナカーボセエウムアマンチ」
これは悪い連中に見つかった。




