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004《携帯メール》

番外編01

『遥香、晴貴、結貴、昇吾、恒子、

 茂、由香里、麻由、翔太、優大、

 司、仁、陽子、亮、あかね、恵子。

 お婆ちゃんも、全員無事です』


『素衣お姉ちゃん、直お姉ちゃん。

 みんな無事です、寮の食堂にいます。

 体育館の天井が落ちています。

 ママ達は試合の応援に行っています。

 まだ連絡がつきません』


「直、読んだ!」

「読んだよ、素衣!」

 スポーツキャスターの西中郷素衣と高萩直は、

 元チームメートの娘、小学五年生の成沢遥香からのメールを何度も読み返す。


 番組の定例打合せ中に、会議室が大きく揺れた。

 ニュースでは東北地方を中心に、大地震が発生したと伝えている。

 次々に各地の震度が伝えられた。

 バラキ県北部の伊立市は『震度6強』想像を絶する事態。

 現地への電話は通信規制で繋がりにくい。

 放送局のスタッフは全員、報道のサポートに駆り出された。

 西中郷と高萩は帰宅を促されたが、裏方の手伝いを志願した。


「よりによってこんな時に」

「子供たちだけで心配だわ」

「遥美たちはつくばね市の試合会場だよね」

「ダメ、携帯電話はサッパリ通じない……」

「遥香からはメールの返信も来ないし……」

「災害用伝言サービスも使われていない」

「171の使い方なんて咄嗟には分からないかも」

「インフラも被害が出ているのかな」

「もうすぐ日が暮れるし、停電していなければいいのだけれど」

「な、泣いている場合じゃないよ」

「そ、そうだね、何か出来る事を考えなくっちゃ」


 放送では次々に被災状況が報告されている。

「遥香たち、TV見ること出来るかな」

「寮の食堂には体操用のラジオが置いてあるはず」

「遥美にはメールした?」

「そうだ、その手があった!」

「みんなにもメールしてみよう、

 子供たちの無事をとにかく知らせなくちゃ」

「そうだね! 遥香からのメールを転送してみよう!」


 やがて元チームメートの成沢遥美たちから続々と返信が届いた。

 応援団も選手も全員無事、バス2台で帰路についたが道路は大渋滞。

 伊立とは直接連絡がとれないから、可能ならば子供たちへ無事を伝えて。

 要点をまとめて遥香に送信。


『ママたちも無事で安心しました。

 停電と断水でガスも止まっていますが、

 アパートの水はまだ出ます。

 寮と体育館の備蓄ボックスに色々ありました。

 食堂のプロパンガスは使えますので、

 みんなで協力してご飯を作っています』

 通信状況は安定しないが、最低限の確認はできた。


 遥香と留守番のお婆さんが中心となり、

 他6人の女の子と、低学年の男の子がひと塊りになって休んでいる。

 食堂前では一斗缶の焚火を絶やさない。

 大鍋の豚汁にガス釜で炊いたご飯のお握り、熱湯も沸いている。

 高学年の男の子たちは眠気を我慢して待機していた。

 最年長の五年生、相賀晴貴がウトウトし始めた子を先に休ませる。


 3月12日になった、街明りは途絶え月が煌々と輝く。

 ようやく伊立北部シュトゥルムのバスが帰着した。

 子供たちは飛び起き、親と涙の再会となった。

「遥香、良く頑張ったわね。

 メールで安心できたし、みんなをまとめてくれてありがとう」

「違うの……、全部晴貴が……」

 気を張り続けていた遥香は、遥美の腕の中で堰を切ったように泣き出した。

『晴貴も抱きしめて欲しいんだよ、ママ、晴貴を褒めてあげて……』

 晴貴に対する感謝や、申し訳ない気持ちがこみ上げてきたが声にならない。


 大人たちが用意された食事をとる間に、晴貴が状況説明。

 子供たちと母親をバス車内で休ませて、父親たちは交替で不寝番。

 遥美は泣き疲れて寝た遥香をおいて、晴貴の様子を窺う。

 眠りに就いた晴貴は、亡き母・貴美の遺影をしっかり抱いていた。


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