035《先生、またね!》
番外編16
氷戸駅南口。
南北連絡通路のワゴン販売で買ったワッフル片手に、
ぺデストリアンデッキを闊歩する五人娘。
11月の第4回定期考査最終日を終え、映画鑑賞。
県内の魚洗町を舞台とするアニメの劇場版を見に来た。
アニメ好きの長島依子がリオに説明。
「……だから、戦争映画じゃなくって、そういう部活なの」
「部活なの? 死なないの?」
「大丈夫、死んじゃうアニメもいっぱいあるけど、
この作品に限っては、そんなことないの」
「う~ん、分かんない」
JRの車中からこの調子。
根岸桜芽が助け舟。
「見れば分かるよ」
「日本の伝統武芸だからね」
からかう西津悠を沼尾柚亜がたしなめる。
「リオは本気にしちゃうよ」
伝統武芸と聞いて帰国子女の野村寿里は興味津津。
いくらからかわれても、あとくされないのがリオの良い所。
映画館前にはいくつかのコスプレ集団がたむろしていた。
コスプレで映画鑑賞。コスプレ撮影。
映画ファンとの記念撮影にも気軽に応じている。
不思議そうに見ていたリオの顔がパッと華やぐ。
「コスプレイボニータ」
「ちょちょちょ、待ってリオ!」
「もうすぐ映画始まっちゃうよ!」
「また今度お願いしようよ!」
「ほらリオ、急いで、急いで!」
「ナナカーアテマイスタールジ!」
四人に引きずられながらも、手を振るリオ。
なぜかコスプレイヤーの一人がドン引き。
予約したチケットを受け取り、
ポップコーンとドリンクを買い込み、
グッズコーナーにしがみ付くリオを引き離し、
喜々としてスクリーンに向かう五人娘。
ホラーの予告編に逃げ出そうとするリオをなだめ、
いよいよ映画が始まった。
興奮さめやらないリオが長島依子に語りかける。
「魚洗町に行こう、今から行こう」
「今からは勘弁してよ」
「グッズ買いたい、もっと買いたい」
「それだけ買ったらもう充分でしょう」
「伊立一高でもやろうよ戦車」
「アニメだから、ムリなの」
「え~っ、じゃあ魚洗女子学園に転校する」
「だ~か~ら~、学園艦はないの」
「ぷ~~~」
頬を膨らますリオを根岸桜芽がなだめる。
「でも、もう一度見たいよね」
「次は『魔法少女カイニ』にしようよ、こっちは実話だよ」
からかう西津悠を沼尾柚亜がたしなめる。
「リオは本気にしちゃうよ」
「やっぱり、魔法少女って本当にいたんだ!」
目を輝かせて、すぐに信じる素直なリオ。
「……私、ずっとなりたかったんだ、魔法少女!」
周囲からクスクス笑われても、
意に介さない五人娘は、どこにいてもかまびすしい。
映画館前のゲームセンターを通り過ぎようとした時、
先頭のリオが突然立ち止まる。
たたらを踏む四人。
「どうしたのリオ?」
「コスプレが気になるの?」
「私たちもやってみたいね」
「でも、そんなジロジロみちゃいけないよ」
キョロキョロしていたリオの顔がパッと輝く。
「あ~っ! 那々珂先生! また来たよ!」
そこには魚洗女子学園のコスプレ集団。
英語教師の佐貫那々珂が、決まり悪そうに手招きしている。
試験最終日は年に数回の好機。
大学時代のサークル仲間に誘われ、
試験監督を終えて、適当な理由で早退したのだが、
悪い相手に見つかってしまった。




