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033《ピンクの豚の貯金箱》

本編19

 思い出しながら西中郷素衣と高萩直は涙を拭う。

「あの時の遥美の対応も良かったよね」


 遥美ママは遥香ごと晴貴を抱きしめた。

「……良かった。

 晴貴がお母さんの事を忘れていなくて。

 貴美お母さんもきっと喜んでいるわよ。

 だって、晴貴のお母さんだものね……。

 そして貴美お母さんは、ママ達の親友だから、

 優しい晴貴がママ達は大好きよ。

 これからも貴美お母さんの事を忘れないでね……」

 遥美ママは担任の東原に目で合図して、

 泣きじゃくる晴貴を遥香ごと連れ出した、

 ママ軍団も続く。


「遥美も後で『やっぱり貴美の代わりは無理ね……』って、

 力不足を嘆いていたけれど、

 それ以上に晴貴の優しさに感激していたわ」

「みんなで遥美を慰めたのよね。

『あなたが居てくれたからこそよ』って」

「だから尚更、入学式の朝に晴貴から、

『遥美母さん』って呼ばれたのが本当に嬉しかったようね」

「晴貴も気が利いた真似をしたものね」

 何故か遥香が自慢げだ。


「とにかく、晴貴はあれから弱音を吐かなくなった。

 自分の中に封印してしまって……」

「我慢しているって訳なの……。

 遥香、あなた良く分かるわね」

「そりゃあ、本物の双子みたいなものだから……」

 違うよ遥香、それを言うなら夫婦みたいなものだよ。

 高萩はそう思ったが黙っている。


 遥香は尚も続ける。

「晴貴がサッカーにのめり込んだのも、

 そこには自由があったからよ、

 サッカーの試合以外に、

 あんなに激しい晴貴を見た事ある?」

「確かに、初めて見た時はびっくりした。

 サッカーの試合じゃ王様みたいだものね」

「サッカーで色々な事を発散しているという訳……」

 西中郷が唇をかむ。


「じゃあ、晴貴が眠れないっていうのは……」

 高萩が尋ねる。

 遥香が晴貴に向かって『よく眠れたか』と言う口癖が気になって、

 かつて理由を聞いたことがある。

「最近でこそ練習で疲れ切って眠れるみたいだけれど、

 中……小学校まではよく一緒に寝ていたから。

 四人で。

 晴貴は明け方まで眠れなかったみたい……。

 事故で入院していた時に、昼間から横になっていたので、

 睡眠のリズムが狂いっぱなしだったんだって。

 最近になってようやく原因に思い当ったらしいわ」

「入院中はウンチが出なくて、みんな困っていたわよね。

 運動不足かストレスかって……」

 何度も見舞いに来ていた高萩には思い当たる。


「私だって眠れない夜はあるわ、

 現代人なら誰もが不眠症で便秘気味だよ」

 西中郷が混ぜっ返そうとして失敗。

 そこに待望の「焼肉どんぶり」が到着した。

 大来軒の女将さんが微妙な空気を敏感に察知し、明るく勧める。

 林檎と晴貴の近況は取り敢えずここまでにしよう。

 三人の旺盛な食欲に火がついた。

 三人とも、食べ始める前からお代わりを注文した。



 ピンクの豚の貯金箱が遥香の家のリビングにあった。

 豚の背中にマジックで「ハルカ、ハルキ、成人式用」と書いてある。

 二人が幼い頃にママ軍団にプレゼントされたものだ。


「ハル姉ェ、何かおかしくないか?」

「何が?」

「この貯金箱、俺たちの成人式用だよな」

「当たり前でしょう」

「ハル姉ェの晴れ着と、

 俺のスーツ代の足しにって、

 二人のお年玉を貯めている」

「だいぶ貯まっているみたいね」

「おかしいだろう」

「だから何がよ?」

「晴れ着って幾らくらいするんだ?」

「ピンキリよ」

「スーツの何倍ぐらい?」

「同じくらいじゃないの?」

「そこがおかしい!」

「考え過ぎよ、バカじゃないの!」

「百歩譲ってそれは措いておくとする」

「理解してくれて嬉しいわ」


「……?

 お年玉と余った小遣いを貯めているけど……」

「あ、ちゃんとお小遣いの余り入れているんだ」

「え?」

「何でもない」

「ハル姉ェはいつも正月明けは羽振りが良い」

「どこかおかしいかな?」

「だってお年玉は……」

「なに! お年玉も全部入れてくれていたの?」

「入れてないのか!」

「入れているわよ。でも全部じゃない」

「それで良いのか!」


 遥香は表情を読まれないように、

 そっぽを向いて髪の毛先をいじりながら応じる。

「晴貴ってバカね、でも凄いわ、褒めてあげる。

 よし、私が特別に許すわ……」

 遥香が顔をドンと近付けると晴貴は圧倒される。

「これからお年玉は半分でいい。

 お小遣いも全部使い切りなさい。

 林檎とのデートとか、何かと要り様じゃない。

 新しいスニーカーが欲しいって言っていたわよね、

 我慢する必要はないのよ!

 来年のお年玉で買っちゃいなさい!」

 一気にまくしたてた。

「良いのか?」

「良いに決まっているじゃない。

 そうだ、お揃いを林檎にプレゼントしたらきっと喜ぶわ!

 早く予約しないと売り切れちゃうわよ、

 今すぐ行ってこい!」

 最後は命令口調だった。


「うぉっしゃ~!」

 いつも通り上手く丸めこまれた晴貴は、

 ハイタッチを交わして飛び出して行く。

 スニーカーは限定品。

 手に入れるには、氷戸の専門店まで行って予約しなければ。

 どうせなら林檎を誘ってサイズを確認しよう。

 行きたがっていた映画館にも行けるかもしれない。

 ありがとうハル姉ェ!

 同じものをプレゼントしてあげてもいいけど、

 そうなると媛貴がうるさそうだから、今回はゴメンな!


 遥香はホッと胸をなで下ろす。

「ママ~、豚の貯金箱、そろそろ晴貴が気付きそう、どうしよう」

 二人の会話を聞いていた遥美は落ち着いている。

「大丈夫よ、晴貴はそんなにガッついていないわ。それに……」

 遥美は大人の余裕を見せた。

「いざとなったら、結貴と媛貴の成人式用に、って言いましょう」

「おぉ~、ナイス!」

 遥香は母親とハイタッチを交わした。


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イシキョウダイ、キュウセイハホンゴウ、

イジメラレテ、セイヲカエタンンダヨ、

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