025《パンポンクラスマッチ》
番外編12
「霧とリマ1000って、何?」
真顔で尋ねるリオこと、帰国子女の野村寿里。
「英語表現Ⅰのテスト最低!」
「問題作成者の性根が腐っているんだよ!」
「あんな試験、一高以外ではあり得ないわ!」
「本当に5点減点されたし、二度と同じ手は食わないんだから!」
長島依子・西津悠・沼尾柚亜・根岸桜芽は口々に試験の憂さ晴らし。
「ペルーの首都リマの冬は海霧ばかりだって言うから、
そこの標高1000メートルの事かな?
そもそも、何で日本語には、
漢字とひらがなとカタカナがあるの?
カタカナってさ「ア」と「マ」。
「リ」と「ン」と「ソ」、それから「シ」と「ツ」って似ているよね?
キリトリマセンじゃなくって、キソトリアセリかな。
基礎とり焦りって、どんな格言?
それともキントンアセリ?
孫悟空が焦って雲に乗る事?
あ~ん、分かんない!」
「なんのこっちゃ!」
「ナン、残っちゃう?」
リオは耳慣れない言葉に遭遇すると、つい復唱してしまう。
それで却って脱線してしまう事がしばしばだ。
五人娘はHR中にもかかわらず、相も変わらずかまびすしい。
「……それでは、クラスマッチの女子代表は、
長島・西津・沼尾・根岸・野村の5人でいいかな?」
担任の倉田は業を煮やして提案した。
『異議なし!』
これ幸いにと、クラス全体が同意する。
クラスマッチの代表なんて、一高生にとっては忌避の対象でしかない。
突然の仕打ちにキョトンとする五人娘。
「異議な~し!」
訳も分からず復唱する野村寿里。
『リオ~、ダメだよ!』
残念ながら手遅れだ。
こうして7月に開催される伊立一高恒例のクラスマッチ、
パンポン大会の1年5組代表が決まった。
ちなみに男子代表は、日頃から目立つ体育会系が選出されていた。
ラグビー部の三根。野球部の佐藤。ハンドボール部の米谷。
サッカー部の骨本。そして相賀晴貴。
「ねえ、パンポンって何?」
「ミニテニス」
「地面卓球」
「小学校でやった」
「中学校でもやったよ」
「ね~え、パンポンってな~に?」
「車庫テニス」
「アスファルト卓球」
「パ~ンと打って」
「ポ~ンと返すの」
「ああ、パ~ン、ポ~ン……って何?」
「私も知りたい。パンポンって何?」
伊立市出身ではない伊師林檎が、部活に向かわず五人娘の輪の中に。
北バラキ市の小木津亜弥も、海東村の多賀冬海も良くは知らない。
小久保中出身で中学までパンポンに親しんだ西津悠が説明する。
「パンポンって言うのは、伊立市で始まったローカル競技で、
伊立製作所の事業所や工場中心に広まったの。
テニスと卓球をミックスしたような競技で、
ノートくらいの大きさの木のラケットで、
軟式テニスボールを打ち合うの」
『ふ~ん』
分かったような、分からないような、リオに林檎に亜弥・冬海。
林檎は部活の体育館に向かい、残りは下校のため昇降口に。
「これから市民運動公園にやりに行こうか?」
「さくらアリーナの前に、誰でも使える専用コートがあるよ」
「ラケットもボールも、置いてあるはず」
「パンポン同好会ってあったよね」
「部活紹介でやっていた」
「この前TVでBKBがやっていたじゃない!」
「あれがパンポンなの!」
「高尾先輩、格好良かった!」
その高尾直妃先輩が昇降口に。
「高尾せんぱ~い! パンポン教えて下さ~い!」
リオの遠慮のない願いに、高尾は笑って頷いた。




