022《第36回伊立市パンポン大会》
本編12
6月の第4日曜日に、第36回伊立市パンポン大会が開かれた。
BKBの国分寺美香が「Z650」と「ZEPHYR」を引き連れて参加した。
BKBの番組中、みどりの日の卓球&パンポンDAYに参加した「ZEPHYR」から、伊立市に『パンポン』というローカル競技があると紹介された。
番組が参加を打診すると、主催団体は快諾した。
正直言って伸び悩むパンポン人気、こんなチャンスは二度とない。
パンポンは1920年代に伊立市の伊立製作所・手山工場で始まった。
テニスに似た競技で、平均台のような低い板を挟んで、
A4サイズくらいの板をラケットにしてゴムボールを打ち合う。
用具は廃材の再利用なので、準備が簡単で試合の回転も速い。
企業や学校の休み時間に、どこでも気軽に行えるので市内に広まった。
ルールはテニスよりも卓球寄り。
全国に散らばる伊立製作所の関連施設でも盛んに行われていた。
東京都出身の国分寺だが腕に覚えがあった。
父は伊立製作所の中央研究所に勤務している。
幼い頃からパンポンに親しんでいた超レア種。
それにバラキ県には会いたい人物がいる、
伊立市内の高校に通っているようだ。
バレーボールDAYに呼ばれた時にも、
観衆の中に見かけたような気がする。
大会当日、BKBの参加は告知が間に合わなかったが、
どこで知ったか大勢の観衆が集まった。
BKBにはエキシビションマッチが用意された。
国分寺と体育会系メンバーは個人戦にもエントリー。
既に申し込み締め切りは過ぎていたがそこは特例、どうにでもなる。
BKBの相手には同年代の女子が掻き集められた。
市民に親しまれているとはいえ、
若い世代には敬遠されがちなマイナー競技。
昨年まで部活動を行っていた一高でも、今年から同好会に格下げ。
伊立製作所の職業訓練学校の一面を持つ、
技科高伊立こと伊立高専には部活動があるがメンバーは全員男子、
色々な意味でBKBとは対戦させられない。
一高パンポン同好会の高尾直妃会長が即席チームの大将を務める。
エキシビションマッチは和気あいあいと進行した。
ゆるキャラの『パンポンくん』も大張りきり。
TV向きの珍プレーも続出、ただし……、
国分寺美香と高尾直妃の大将戦は別格だった。
激しいラリーの応酬が会場を沸かせる。
高尾は面食らう。
この娘は間違いなく経験者。でも意地でも負けられない。
国分寺は楽しかった。
この娘は結構やるじゃない。でも意地でも負けられない。
意地と意地とのぶつかり合いは国分寺に軍配が上がった。
高尾は同好会格下げにより、
パートナーが集まらず練習不足。
国分寺は久しぶりの実戦だったが、
トップアイドルの活動はアスリートの日常と変わりない。
全体としては素人集団のBKBだったが、
国分寺が一矢報いた結果となった。
BKBからは一般女子シングルスBのトーナメント戦にも8名が参加した。
「Z650」から国分寺、高崎鈴、笠戸菜月、栃木風巴。
「ZEPHYR」から横浜秋奈、土浦望、折笠里雪、山崎ゆり。
国分寺以外は全員、一回戦で敗退。
国分寺はファンの応援を受けて快進撃。
準々決勝で高尾と再戦。
今度は高尾が雪辱を果たした。
全力を出し切った高尾は準決勝で敗退。
第36回伊立市パンポン大会は例年にない盛り上がりを見せた。
BKBの乗ってきた観光バスには小木津亜弥が待機している。
国分寺のマネージャーが礼を尽くして呼び出した。
かつて国分寺と過ごした、子役時代の担当マネージャーだ。
成長した国民的アイドルとの再会は、正直気が進まないが、
世話になった手前、無下には断ることはできない。
国分寺がバスに戻ってきた。
亜弥の姿を認めると、黙ってハグしてきた。
お互い我儘放題の子役時代を思い出していた。
「亜弥、大変な時に力になれなくてゴメンネ」
「いいのよ、私は自分の判断で最終オーディションを辞退したの。
あの時はどうしても故郷を離れる事ができなかった」
「……」
「美香、あなたの活躍はいつも見ていたわ」
「……私は悔しいの。……亜弥なら最高のライバルになったのに」
「良く言うわね。……夢を叶えられるのは選ばれた一握りの人間だけよ」
「今からでも遅くないと思うのだけれど……」
「ムリ、ムリ。それに私は新しい夢を見つけたの」
「そう……。亜弥は昔から頑固者だったからね」
「美香は学校には行ってないの?」
「それこそムリ、ムリ。
それにBKBの一人ひとりはライバルだけど、
こうやって一緒に切磋琢磨していくのも良いものよ」
「勉強はいつでも、どこでもできるわよ」
「それは優等生の考えだわ。
それに私たちは『おバカ』も武器になるのよ」
「それこそ選ばれた一握りの特権」
二人は笑い合った。
美香が一つ年上だったが二人は親友同士だった。
会えなかった4年間のブランクは感じない。
観光バスは亜弥を乗せたまま伊立中央ICから北バラキICへ向かう。
北バラキ市で一緒に本物のどぶ汁をつつく。
子役時代の約束を果たす事が、亜弥の出した再会の条件だった。
BKBのメンバーもご相伴にあずかる。
マネージャーも最後に一度だけ復帰を打診した。
亜弥は丁重に断る。
でも今に見てらっしゃい、私は私の新しい夢を叶えてみせる。
美香もあれこれと詮索はしなかった。
お互いの人生を、お互いが尊重し合っている。
湿っぽい事もなく、二人は両手でハイタッチをして別れた。
一高の7月のクラスマッチはパンポン大会になった。
パンポン同好会には入会希望者が殺到している。
全校総会で「部」への復活が承認された。
秋にはBKBとの再戦も予定されている。
高尾直妃は燃えていた、国分寺美香とは決着をつけなければならない。
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パンポンダサイ、
マダヤッテルノ、
ショウガッコウデ、イヤイヤヤラサレタ、
タカオダサイ、
ピクニック、ピクニック、センセトイカナイピクニック、
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