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021《・・・キ・リ・ト・リ・マ・セ・ン・・・》

番外編10

 伊立第一高等学校、佐貫那々珂は英語教師。

 バラキ大学教育学部を無事卒業して教職を得た。

 3年目にして、初めて一年生の担任を持った。

 運動はあまり得意な方ではなかったが、

 1年目にパンポン部の顧問を押し付けられた。

 今年から同好会に格下げになったことで、

 新たに漫画研究会の顧問も兼ねる事に。

 元来のアニメ好きだったが、生徒にはひた隠し。

 コスプレ趣味もとてもじゃないが公言できない。

 生まれ育った魚洗町は今や日本を代表するようなアニメの聖地。

 通勤は大変だったが、実家通いを続けている。

 毎日が聖地巡礼のようなものだった。


 一高での同僚からの評判は可もなく不可もなく。

 ただし、生徒からは年齢が近い分、からかわれる事が多い。

 いつの間にかドジっ子キャラがつけられていた。

 些細なことでも大袈裟にいじられる。

 思わず涙した事も一度や二度ではなかった。


 バラキ大学で出逢った彼氏との交際は順調だ。

 農学部出身の彼は県南でトマト農家の跡取りとして働いている。

 いずれ農家のお嫁さんになるのかな。

 ご両親が元気なうちは県南で教師を続けていきたい。

 デートの度にそんな話を繰り返した。

 今は先生として頑張ってと、いつも彼氏は言ってくれる。

 今日も生徒に泣かされて、彼氏に電話で慰めてもらった。

「やられてばかりじゃなくて、少しは反撃しなきゃ。

 生徒側はコミュニケーションの一つとしてしか考えていないよ」

 そうかしら? あの憎たらしいガキ共に、いつか仕返しできるのかしら。


 6月の第2回定期考査。

 一年生の初日の第一科目は「英語表現Ⅰ」問題は佐貫が作成した。

 5組の相賀晴貴は試験監督の合図とともに、問題用紙を広げた。

 まずクラスと出席番号、氏名を記入する。

 問題用紙等をざっと見渡す。

 最後の問題用紙は、下半分が解答欄になっていた。

 ふと、違和感を覚えて、もう一度俯瞰で全体を見渡す。

 問題文と解答欄の間に用紙を二分するような点線。

 同級生たちは定規を当てて、解答用紙を切り離す。

 晴貴は気付いた。


「残り時間、あと5分。ケアレスミスに注意して。

 もう一度『問題用紙をよく読むように』いいな」

 1組の成沢遥香も最初は気付かなかった。

 周囲の用紙を切り裂く音が何故か気になり、切り離すのは後回し。

 再度の見直しで罠を見つけた。

 何これ、最低。……バカ晴貴は引っ掛かれ。


 一高では試験監督が受験心得や受験テクニックを、

 試験前に一言アドバイスをしてくれる。

 遥香と晴貴が話を突き合わせてみると、

 全クラスで同じ内容が話されているようだ。

 場合によっては容赦なく減点される。

『問題用紙をよく読むように』

 それが今回の直前アドバイス。


・・・・・・・・・キ・リ・ト・リ・マ・セ・ン・・・・・・・・・


「切り取り線」ではなく「切り取りません」

 これはやってはいけないパターンだ。

 それにしても、誰が考えたのか根性悪いゾ。


 9組の担任、佐貫那々珂は平静を装う。

「はい、そこまで。試験終了です。筆記用具を置いて下さい」

 大きく深呼吸。

「なお、解答欄を切り離した人がいるようですね。

 良く読んで下さい『キリトリ「マ」セン』です。

 切り取った人は、注意力が足りません。

 これが本当の「マ抜け」と言うものです、減点5。

 提出前にこのセロテープでつなぎなさい」

 一年生の全教室から、同時に生徒の悲鳴が上がる。

 抗議しても無駄よ、これが一高流。

 受験戦争を勝ち抜くための、一高教師陣からの愛のムチ。


 切り取らなかったのは学年でたったの3人、

 1組、成沢遥香。

 5組、相賀晴貴。

 5組、野村寿里。リオはそもそも分かっちゃいない。

「霧とリマ1000」って何だろう? ラマに似た動物かな?


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