018《お兄様とお揃い》
番外編09
入学式のあった週末、紳士服の量販店。
ブレザーを選ぶ伊師林檎と葡萄お兄様。
葡萄が紺のブレザーを羽織る。
「お兄様、とてもお似合いです」
兄がグレーのブレザーを合わせる。
「お兄様、なんて素敵なんでしょう」
林檎がチャコールのブレザーを褒める。
「ああ、お兄様は何を着ても素晴らしい」
入店以来ずっと着せ替え人形状態。
「俺が林檎と同じ紺のブレザーを買えば良いのでは?」
耐えかねて、つい妹に提案する。
「ダメです、お兄様。
林檎は二人だけで揃えたいのです。
他の誰かと似ていては困ります」
適度な距離を保ったままのベテラン店員がすかさず介入。
「お嬢様、いっそ生地からのお仕立てはいかがでしょう?」
「本当ですか!」
お兄様は焦る、これは大事になりそうだ。
「それは大変だろう。
費用とか……。
いや、林檎と揃えるためなら幾ら使っても構わないけれど、
仕立てるとなると時間がかかりそうだな……」
「ご心配には及びません。
セミオーダーのシステムがございます。
生地さえ選んでいただければ、
いくつかのパターンの組み合わせでお作りいたします。
採寸も簡単に済みます」
妹は目を輝かせている。
やはり大事になってしまった。
仕方ないので、思ってもいないことを口走る。
「俺は一日でも早くお揃いにしたいのだが……」
「まあ、そうでしたの!」
「一週間で仕立て上がります」
すかざず、ベテラン店員がフォロー。
「それなら待てますわ、ねえ、お兄様」
「あ、ああ」
生地選びが始まった。
白、赤、濃緑、紫……。
林檎は特別な色に拘った。
「お兄様、グレープの色はどうでしょう?
それともマスカットの色はないのかしら?
お兄様の名前にちなんだ色です」
アニメじゃあるまいし、それだけはやめてくれ、
どこかの学校で採用しているような、
まともな色があるはずだが、
さて、どうやって林檎を納得させたものか。
エンジ色の生地に目が止まる。
たしか県南にそんなスクールカラーの学校があったような。
「これなんかどうだろう?」
「濃い赤色ですね、お兄様」
「お嬢様、エンジ色です」
「ワインカラーだな」
「!」
林檎が反応した。
「ワインカラーなのですね、お兄様!」
「とても落ち着いた、それでいて個性的な色です。
ご兄妹にぴったりですね」
思ったより早く注文話がまとまった。
「林檎、仕上がりが楽しみだな。それでは帰るとするか」
「いいえお兄様、私達のエンブレムも考えなければなりません」
「エンブレム?」
「そうです。二人だけのオリジナルエンブレムです。
どこかのバカ姉弟には負けてられませんわ」
「そんなものなのか……」
「お母様には『お夕食はお兄様と済ませてくる』と言ってあります。
ゆっくり考えながら、お食事しましょうね」
妹は兄を伊立駅の眺望の良い「カフェインザスカイ」に連れて行く。
「私はオリジナルパンケーキを、
お兄様にはクラブハウスサンドをお願いします」
これは普通にデートではないか。
まあ、可愛い妹が喜んでいるのなら不満はない。
……のだが、いつまでもこんな調子で、本当に良いのだろうか?




