表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/109

017《体操服と柔道着》

番外編08

 一年生がエンジ、二年生がグリーン、三年生がネービー。

 成沢遥香と相賀晴貴が入学した年の、伊立第一高等学校の体操服だ。


 高校生活4日目。

 今日は初めての体育の授業がある。

 遥香は体操服を入れたランドリーバッグを、

 晴貴に持たせたまま登校していた事を思い出した。

「仕方ない、5組に取りに行くか……」

 弟なら気を利かせて持ってこい。

 ぶつぶつ言いながら廊下に出ると晴貴と鉢合わせ。

「お姉様、体操服をお忘れです」

 芝居がかった言い回しでへりくだった態度。

 一昨日、ふざけた噂を立てた罰にキツイお灸を据えておいた効果かな。

「あら、ご苦労。下がっていいわ」

 同級生が何故かクスクス笑い。

 いつもの調子で芝居を合わせてしまった事をちょっとだけ反省。

「遥香、今のが双子の弟さんね」

「遥香の弟、結構イケメン!」

「ゾンネンプリンツの選手なんでしょう?」

「あとで紹介してよ」

 騙されて敬語使いだった同級生とは、

 誤解が解けてすぐに懇意になれたのは怪我の功名だったが、

 昨日の一件で今度は格闘技の達人との噂が流れている。

 まあ、気にしても仕方が無いか。


 体育の授業は1組と2組が合同で行う。

 初日なので、体育館の更衣室で着替えてから、

 体育館・武道場・プール等体育関連施設の説明があるらしい。

 薄汚れた更衣室に文句を言いながら、女生徒たちが着替えを始める。

 あれっ? 何で私だけ「グリーン」?

 遥香はランドリーバッグを開けると、自らの詰めの甘さを悔いた。

 同級生は新品、エンジの縁取りのTシャツとエンジのジャージ上下。

 私のは妙に使用感のある、グリーンのTシャツとジャージ上下。

 どこで手に入れたのか、中古の2年生用体操服一式。

 気付いた同級生の顔が引きつっている。

 怒りに震えながら頭をフル回転。

 これは晴貴のいたずらで、私を留年生に仕立て上げたいらしい。

 ブチ切れるのは簡単だが、ここにいるのは何も知らない同級生。

 一緒に授業を行う2組はまだ来ていないが、

 事情を知る賀多中の出身者がいたはず、ここは我慢。

 額に青筋を立て、口をへの字に結んだまま、グリーンの体操服に着替える。

「な、成沢さん、体育は得意なんですか?」

 おまえさっきまで呼び捨てにしていたよな。

「成沢さんの弟さんもスポーツ万能っぽいですね」

「未来のJリーガーなんですよね?」

「あとで紹介して下さい」


「あれ、遥香、どうしたのそのジャージ……」

 やっと来てくれた2組の旧友。

 遥香はワザとらしく溜息。

「はぁ~あ。バカ晴貴に仕込まれた」

「びっくりした。

 だって私、遥香の留年生の噂を必死になって打ち消していたのよ」

 ありがとう。さすが同中出身者。

「遥香、そんな事だろうと思っていたわ」

 調子良いぞおまえ。

「遥香の弟って、いたずらっ子ね」

「プロ予備軍って格好良い!」

「あとで紹介してよ」

 何だおまえら、あんなバカに惚れるんじゃない。


 体育担当の教官は、晴貴の担任でもある5組の倉田。柔道部顧問。

 遥香の2年生ジャージに最初面喰らっていたが、

 そのいきさつを聞いて大笑い。

 倉田は柔道場で遥香を挑発、組み手を所望した。

 柔道部主将が油断して締め落とされた事を根に持った訳ではなく、

 ダイヤの原石の格闘技センスを見極めたかった。

 遥香もグリーンのジャージを柔道着に着替える。

 合気道を嗜む遥香の、凛とした道着姿に女子生徒たちがささめく。

 3分の約束で手合わせが始まる。

 遥香はちょこまかと動き回り、組み手を許さない。

 倉田の実力は折り紙つき、捕まったら最後、絶対に敵う相手ではない。

 時間ギリギリまでとにかく逃げ切って、最後にワザと捕まる。

 そして綺麗に投げられたが受身は万全。

 柔道部顧問にも華を持たせたこの展開が最善だ。

「参りました」

「いや、大したものだ、どうだろう成沢さん……」

 皆まで言わせず一礼すると、女子生徒から取り囲まれた。

 何だおまえら、女の私に惚れるんじゃない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ