014《噂の双子》
本編07
多賀冬海は入学式を見に来ていた両親と合流すると、
心配顔の母親に報告した。
セーラー服は今日限りにする。
替わりにブレザーが欲しい。
早速友達ができたと言って、スマホの画像を示す。
良かったわねと母親は心から嬉しそう。
イケメンじゃないかとからかう父親は無視された。
途中のファミレスで食事をして、
祖父母の家に寄ったので帰りは夕方になった。
帰宅すると自室で、ベールで覆われたドレッサーの三面鏡を久々に開く。
今まで鏡を見るのが苦手だった。
朝の洗顔時に一瞥するくらいだった。
もう一度、自分の事を好きになれるかな。
新しい環境で何だか変われそうな予感がしていた。
入学2日目、朝のHR直前に成沢遥香が5組に乗り込んできた。
「ハァ~ルゥ~キィ~!」
教室の前扉をガンと開け、遥香が仁王立ちで教室を見回す。
すぐ目の前にいる相賀晴貴には気付かない。
何か身に覚えがあるようで、危険を察知した晴貴は机に突っ伏した。
「目の前よ」
晴貴の後ろの席で伊師林檎がボソリと告げる。
「バカ、余計なこと言うな」
「バカとは何よ、失礼ね」
相変わらず林檎は素気ない。
振り向いて身を隠そうとする晴貴の背後に遥香の影が覆いかぶさる。
「イデデデデ……」
教室全体が何事かと静まり返る。
晴貴の耳を遥香が引っ張って、黒板の前まで引きずり出した。
「クラスのみんなが敬語だから、何か変だと思ったら、
誰がダブリの可哀想な姉だって?」
やはりその件か、それにしてもばれるのが早過ぎる、何とかせねば。
「お姉さま、ご免なさい。
打ち合わせ通りにお姉さまのバカを隠すつもりだったのですが……」
「この期に及んでまだ言うか!」
遥香は晴貴の正面に回ると教科書通りに右袖と左襟を掴む。
内懐に潜り込み、踵を浮かせるとフワリと晴貴の身体が浮いた。
そのまま豪快に晴貴を投げ飛ばした。
「何をしている!」
担任の倉田は目を疑った。
昨日の服装の件が気になり早目に教室に出向いたところ、
目の前で女子生徒が男子生徒をきれいなフォームで投げ飛ばした。
「あらご免あそばせ。何でもございません。オホホホホ……」
そして床に伸びている晴貴を指差し、
悪魔のような仕返しの言葉を放った。
「私のブラとパンツ、もう勝手に持ち出すなよ。
今着ているのは返さなくていい」
ニヤリと笑って遥香は去って行った。
「キモイ」
軽蔑するように林檎がそっぽを向いた。
担任の倉田は我に返る、今の女子は確か1組の噂の双子の姉。
投げられた方は、運動神経抜群と言われている双子の弟。実は変態。
見つけた、ダイヤの原石。
午後の合同オリエンテーションで早速女子柔道部員を募集だ。
HRでは様々なオリエンテーションが行われる。
いつもはクラス担任が学校の歴史や授業、
部活の紹介などをマニュアルに従って行っていたが、
今年は少々勝手が違った。
新任校長の関は民間人からの登用で、次々と新機軸を打ち出してきた。
教頭の小平は「何もできやしない」と最初は甘く見ていたが、
第一回の職員会議までに、巧妙に教職員の大半を手なずけていた。
時間割の2週間ローテーション化。
単位制を採用する一高では、ハッピーマンデーにより月曜日実施教科の時間が減少してしまう問題を是正するためと押し切られた。
部活動の掛け持ち推奨と統一休養日の設置。
複数の競技に登録することにより活躍の機会を増やす。
週一回の休養日を設けて「文武両道」の伝統を復活させる。
野球部を中心として体育教官からは当然猛反対の声が上がった。
掛け持ちはとりあえず新一年生から試行。
才能あるアスリートの陸上部への協力を拒まない。
休養日は統一せず、ランニングやウエイトトレーニングデーとして抜け道も用意。
無理に採用しなくても良いですが、現状の練習メニューで県大会ベスト4以上の実績が伴わない部は、来年度には再考してもらうことになります。
学業不振者は16時以降の部活動を認めません。
簿記検定や国家資格などの資格試験の取得を推奨します。
二学期制を三学期制に戻し年間の試験回数を増やすべきではないでしょうか。
教師の質向上のために若手教員は全員、県主催の「教師塾」受講して下さい。
予備校との連携も考えています。
まだまだ他にもあれこれ画策しているようだ。
午後は体育館に新入生が集められた。
部活動等の合同オリエンテーションが開かれる。
まず生徒会と各委員会について。
次にスーパーサイエンスハイスクールの説明。
関校長の「部活動掛け持ち推奨」演説。
演説の中で校長は晴貴の名前こそ出さなかったが、
サッカーJ2ユースチーム所属の生徒の存在を紹介した。
文武両道の推奨と、幅広い種目を経験することの意義を力説。
4月中は自由に体験入部を楽しんでください、在学中の変更も認めます。
陸上競技や水泳への積極的協力を改めて要請した。
そしていよいよ部活動の説明が始まる。
文化系の部活動や部員集めに奔走するマイナー競技の勧誘は力が入っている。
同好会、研究会、それ未満のサークルにも説明の機会が与えられていた。
野球部やサッカー部などのメジャー系は余裕で寸劇やバク転・バク宙を披露。
柔道部のキャプテンは女子部員募集を力説したが、生徒はドン引き逆効果。
陸上部は校長の方針を追い風に、部活の楽しさを強調、週一回でも結構です。
部員減により格下げになったパンポン同好会の会長、高尾直妃が再起を誓う。
「伊立市の伝統競技、パンポンを復活させましょう!」
駆り出されたゆるキャラ『パンポンくん』とデモンストレーションするが、
『パンポンくん』が引っくり返り、あっけなく退場。
応援団は別格で一高に伝わる「黒檀節」を披露。
「黒檀の窓かぁ~ら、一高生がよぉ~
唄うその歌よぉ~お、黒檀節さよ~」
ハイキング同好会のお気楽パフォーマンスが一番の注目を集めた。
「ハイキング~、ハイキング~、
みんなで行こうよハイキング~、
先生と行かないハイキング~」
上手から手を繋ぎ、繰り返し歌いながら出てきて、そのまま下手に消えて行く。
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イチクミ、ナルサワハルカ、
ゴクミ、アイガハルキ、ブラダンシ、
アネガバカナキョウダイ、
フタゴダッテ?
ウソダヨ、
カイイヌハ「ハルク」、
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