013《ステーキ・ガッツ》
番外編07
相賀媛貴は1ポンドステーキを切り刻む。
「ちゃんとフォークで押さえて切りなさい。
まず半分に切って、
横じゃなくて縦に。
切れたら断面をプレートに押し付けて、
熱を入れて……。
それは焼き石、
熱いから気をつけて!」
相賀晴貴が付きっきりになる。
妹は自由奔放、
手当たり次第にカット。
兄はプレートからこぼれ落ちそうな、
ポテトを小皿に取り分け、
敷かれたオニオンスライスを脇によける。
しまいには晴貴が塊肉の押さえ役に。
「好きにさせればいいじゃない」
成沢遥香が無責任に笑う。
『結局は俺が食べる事になるんだぞ』
小声で長女に文句を言う。
いびつに切り裂かれた肉片を、
焼き石に乗せてやる。
「もう食べごろだから、
良く噛んで食べるんだよ。
……それは大き過ぎる!」
媛貴は構わず口いっぱいに頬張る。
もぐもぐもぐ。
予め時間差で出すように頼んでおいた、
チーズINハンバーグと海老フライのセットが届いた。
晴貴が敢えて注文した品だ。
「うわ~、美味そうだ」
ふーふーふー。
長兄は海老フライの断面を、
末っ子に見せつける。
妹は少し気になる。
もぐもぐもぐ。
「海老フライ~、海老フライ~」
長男は自慢するように唄いながら、
タルタルソースをたっぷり乗せる。
遥香にフォークを掴まれ、
奪い合いになるが辛うじて制する。
媛貴も興味津津。
もぐ、もぐ、もぐ。
「チーズ、ト~ロ、トロ」
今度はハンバーグを真っ二つ。
妹は羨ましそう。
もぐ、もぐ、もぐ……。
晴貴はカットしたハンバーグを、
デミグラスソースに浸し、
ふーふー言いながら、
見せつけるように口に運ぶ。
なかなか肉を呑み込めない少女は、
遂に涙目。
もぐ…、もぐ…、もぐ……。
二男の結貴が素知らぬ顔をしながら、
差し出したジュースを、
末っ子の媛貴は両手で受け取る。
ごくごくごく。
ようやく一息つけた。
「おお兄ちゃん、
かみ切れない、あごが痛い。
やっぱりハンバーグが良い……」
いじらしくも控え目に要求する。
「ほいほい」
すんなり交換する晴貴。
媛貴の顔がパッと輝く。
「おお兄ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして」
「甘いわね、おお兄ちゃん」
遥香がからかうが、
晴貴にとっては予定通り。
母さん軍団は、
微笑ましい様子を見守っている。




