109《grand epilogue 満天の星空》
番外編55
島の娘は、島を出た。大きな町で夫と出会い、孫を授かる。
島の孫娘は、大きな町で成長、大都市で結婚し、ひ孫を授かる。
島のひ孫は、天使として島に舞い戻った。
島の天使は、分校を手伝いながら高校卒業の資格を取る。
島の天使は、通信制大学を卒業。
島の天使は、教員免許も取得。
島の天使は、分校の小学校教諭となる。
島の天使はやがて、島で伴侶を得、玄孫を授かる事になる。
初夏。
数十年ぶりの油縄子島での祝言。
その前夜、島の大人たちは、男も女も一晩中飲み明かす。
新郎と、新婦を除いて。
新郎と新婦は夜明けとともに、
島外から迎えに来た船で、別々に本島に向かい、
役場で合流して婚姻届を提出する。
昼過ぎに別々に島に戻る。
新郎の船は島を左回りに一周。
新婦の船は島を右回りに一周。
出会ったところで、島の船が総出で新婦の船を取り囲む。
数十年ぶり故に、島外からの応援船も大挙来訪。
新婦の船の従者、独身女性たちが、柄杓で海水を掛けて防衛する。
新郎の船が、取り囲んだ船を一艘ずつ、お神酒を掛けて追い払う。
新婦の船を救い出した新郎は、お神酒で新婦の船を清める、
新婦の船の従者たちは海に飛び込み、島の若者たちが救い出す。
新郎は新婦を船に迎い入れて港に向かう。
新婦と新郎は揃って油縄子御嶽を詣でる。
新婦が拝所へ向かい、夫婦となった事を祖先に報告。
そして島の集会所で、新郎新婦のお披露目となる盛大な宴が催される。
翌日も、新郎新婦を除いて一晩中の宴会。
三日がかりの、島での祝言は滞りなく行われた。
祝言の前夜、新婦の兄は宴を中座し、
最愛の妹を、静かな海辺に連れ出す。
目の前は大海原と満天の星空。
ただ黙って、二人で空を見上げる。
水平線近くには南十字星。
本郷林檎として生を受け、
伊師林檎として恋をした。
町屋林檎として島中から愛された妹は明日、
知念林檎となる。
「お兄様、林檎のために、
これまで本当にありがとうございました」
「うん……」
「優しいお兄様の妹に生まれて、
林檎は幸せです」
「うん……」
「優しい晴貴君と出会えて、
林檎は幸せ者でした」
「うん……」
「優しいみんなのいるこの島に帰ってきて、
林檎は幸せ者です」
「うん……」
「とても優しい萬郷さんのお嫁さんになれて、
林檎は、幸せです」
「うん……」
葡萄は胸がいっぱいで何も言えない。
晴貴との離別はしっかり乗り越えられたようだな。
しかし、後悔は微塵もない。
「……明日、成沢たちが本島で待っているはずだ」
ようやくそれだけ絞り出した。
「はい……」
林檎も胸がいっぱいで、
それ以上何も言えない。
二人を見守る満天の星空。
妹が部屋に戻るのを見届けて、
宴の席に戻ろうとする兄。
林檎が葡萄を呼び止める。
「GIVE ME FIVE」
「YES」
二人は優しくハイタッチを交わした。
空は満天の星空。




