102《冬海の卒業式》
番外編50
多賀冬海は翌日の準備をしていた。
明日は3月1日。
高校の卒業式で、冬海の18回目の誕生日。
スケッチブック。手作りチョコレート。ラブレター。
片思いの相手は、入学式の日に出逢った同級生。
引っ込み思案でひねくれ者だった私が、
変わるきっかけを与えてくれた。
自分ではそう思っている。
私には不釣り合いなのは分かっている。
でもその彼は、私にも分け隔てなく接してくれた。
気遣いができる人で、女の子の扱いが上手。
だからと言って自然で鼻につく事もない。
スポーツ万能でかなりモテる。
すぐに大好きになったけれど、
告白する勇気なんてある訳ない、
こんな自分から好かれたら迷惑じゃないかしら。
告白しても結果は見えている、
笑い者になるのがオチよ。
彼は笑ったりはしないだろうけれど……。
3年間、同級生でいられた。
彼の活躍を身近で見る事ができた。
私なんかには、それで十分。
彼とお付き合いする娘とも友達だった。
それならせめてサポート役に徹しよう。
私なんかには、それがお似合い。
そして、もう一人、どうしても敵わない相手がいる。
お姉さんだなんて言っているけれど、
まるで18年間連れ添った夫婦じゃない。
本当にお互い意識していないのかな?
アニメやラノベの世界じゃあるまいし、
そんな奇跡が本当にあるなんて。
彼との会話は、一言一句覚えている。
彼と一緒の時間は、事細かに思い出せる。
アクシデントで彼と唇が触れてしまった事があった。
その直後の記憶だけが飛んでいるけれど、
私にとっては紛れもないファーストキス。
彼にとっては取るに足らない事だろうけれど、
汚点になっていなければいいな。
でも、私の青春の大切な思い出だ、
これだけで一生、幸せな気持ちで過ごせるはず。
彼をモデルにした漫画も実は沢山。
直接的ではないけれど、
私が思い描くヒーローは、
どこかに彼の一面を含んでいる。
誰にも見破られないはずだけれど、
亜弥の含み笑いが気になるな、
ばれちゃっているのかな?
自分では全然わからない。
スケッチブックと手作りチョコレートだけを持って行く。
恋文は秘密のクッキー缶の中に。
缶の蓋が閉まらないほど、
渡せなかったラブレターで一杯、
これも、私の青春の大切な思い出だ。
卒業式もHRも終わり、彼が一人になった。
こんなチャンスはもう訪れない。
つくばね大学に合格しているけれど、
噂じゃもっと遠くに行ってしまうとか……。
ううん、だからこそ、
今だけは自己中心で行くのよ!
3年間の感謝を伝えなきゃ。
スケッチブックは受け取ってくれるかな、
ストーカーと思われないかしら。
チョコレートなんて迷惑じゃないかな、
義理よ、義理義理、友達だもの。
さあ、冬海、勇気を出して!
告白する訳じゃないんだから!
「あの……。相賀君……」




