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010《自己紹介》

本編05

 入学式・対面式を終えホームルームに戻ると、お決まりの自己紹介が始まった。

 出席番号は五十音順で、廊下側から座っている。

 当然「あいがはるき」が口火を切ることになる。

 面倒そうなことは自分から説明してしまうつもりだ。

「相賀晴貴、賀多中出身。

 伊立ゾンネンプリンツのユースチームに所属しています。

 先ほど体育館でハイタッチを交わしたのは姉の遥香です。

 同じ学年になってしまいましたが姉は可哀想な人です。

 1組ですが、どうか皆さん仲良くしてやってください」


 虚実ちりばめた簡潔な挨拶には遥香へのいたずらが含まれている。

 事情を知る同中出身者は苦笑い。

 しかし、その中にも本当の事、真実の関係を知る者はいなかった。

 複雑な家庭事情を持つ双子だと、全員が信じていた。

 それ以外は晴貴のミスリードで、遥香がダブっていると勘違いした。

 一名を除いて。


 次の出席番号2番は小柄な女子だった。

「伊師林檎です。

 父の仕事の関係で彩玉から引っ越してきました。

 あ、父が伊立に来たのは去年からで、2年生に兄がいます。

 兄は男子バレーボール部です。

 私も女子バレーボール部に入部する予定です。

 初めての方ばかりですので宜しくお願いします」


 晴貴は振り返った。

 ツンと澄ました紺ブレの美少女がそこにいた。

 林檎と名乗ったが、髪型のシルエットが正にリンゴっぽかった。

 バレーボール部、ISHI、どこかで引っかかった。

 林檎は腰をかけると咳払いして、晴貴に鋭い視線を向けた。

「嘘つき」

 それだけ言うと、プイっと視線を外して続く自己紹介に関心を向けた。


 小木津亜弥は完全にキャラを作っている。

「皆さん始めまして。小木津亜弥で~す。

 北バラキ市の七浦中学出身です。

 今朝、このなんちゃって制服で怒られちゃいました。

 明日からは、抑え目にしてきま~す。

 クラスの女子みんなで、制服を揃えられたら素敵だと思います。

 3年間宜しくお願いしま~す」


 多賀冬海はおどおどした態度でしかも小声だった。

「多賀冬海です。海東二中出身。

 趣味はイラストとアニメ鑑賞です。

 同級生に、眼鏡有り・無し、自律、消失ちゃん、他人格ちゃんがいて感激です。

 よ、宜しくお願いいたします」

 ほとんど聞き取れないばかりか、聞こえても理解できるものは少数だった。


 そして問題のコスプレ娘が続いた。

「長島依子。川助中出身。趣味は読書」

「西津悠。小久保中出身。趣味は読書」

「沼尾柚亜。玉駒中出身。趣味は読書」

「根岸桜芽。丘泉中出身。趣味は読書」

「野村寿里。師恩学園中等部出身。趣味は読書」

 それぞれが淡々と見事に演じ切った。

 ちなみに一、四、五番目が眼鏡っ子。


「ちょっと待って、さっきは4人だったじゃない!」

 小木津亜弥が異議を唱える。ぶりっ子キャラがいきなり崩れた。

「1番、あなた見たわよね。出席番号1番、あなたよ!」

 晴貴が答える前に、もう小木津は多賀に問いかける。

「二高生、あなたも見たわよね、4人だったでしょう!」

 戸惑いながら多賀が答えた。

「さっきは最後の他人格ちゃんがいませんでした」

「そうよね。……でもあなた何言っているの? 私には見分けつかない」


 小木津は5人目の野村に詰め寄る。

「あなた朝はいなかったわよね、いったい何者なの!」

 詰め寄られて苦し紛れに野村が答える。

「コスプレイエスタオッチモ」

「???」

 小木津は一層混乱する。


 晴貴が思わず応じてしまった。

「ポルトゲス?」

 伊立ゾンネンプリンツの監督はブラジル人。

 ユースチームのスタッフにもブラジル人がいるので、ポルトガル語は多少分かる。


 野村が涙目でウンウン頷く。

 野村はブラジルからの帰国子女。

 咄嗟に日本語を操るのは得意ではない。

「何なのよあなたたち、もう知らない!」

 手に負えないと見たか、小木津が諦めて放り出す。


 担任の倉田は苦笑しながら見守っていた。

「さあ次の人、自己紹介を続けて下さい。

 なお、今の5人衆はキャラがかぶり過ぎだ。

 明日もう一回、自己紹介をやり直すように」

 倉田は柔道部顧問の体育教官。

 四年後に開催される第74回国民体育大会「いきいきバラキゆめ国体」に向けて採用された、柔道界の若き実力派だった。

 実はアニメ好き。

 一つくらい厄介事が増えようがもう動じなかった。


 初日のカリキュラムは午前中で全て終了した。

 新入生は三々五々帰途につく。

 キャラ被りの5人衆がなにやらヒソヒソ作戦会議。

「ねえ、ねえ、この制服どこで買ったの?」

 リーダー格の根岸が尋ねる。

「……私はヨーコドー」

「阿藤洋子堂」

「伊立駅前のスーパー」

「ATOU YOUKO DOU」

「じゃあ、みんな一緒だ! 私たち5人姉妹みたいだね……」

 お調子者の長島が手を叩く。


「期末セールの日だよね、何時頃だった?」

 またも根岸が尋ねる。

「6時、最後の1着」

 天井を指差し、腰に手を当てて長島。

「4時くらい、私の時は残り2着」

 顎に指を当てて小首を傾げて思い出しながらの西津。

「2時には4着。その中にサイズ違いがあったような気がする」

 スマホの画像を確認する沼尾。

「メイオジア……お昼には5着あったよ」

 ついポルトガル語が出たのが野村。

「開店直後は6着、1着はLLサイズだったはず」

 さすがしっかり者の根岸。

「じゃあ、もう一人仲間がいるんだ!」

 長島が目を輝かせる。


「あの……15時頃……私です」

 輪の外から遠慮がちに多賀が手を挙げた。

『6人姉妹だ~!』

 全員でハイタッチを交わす。

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