私の新しい世界
登場人物紹介
叶結愛
私立桜の丘高校に通う十六歳の高校一年生。
栗色で耳がすっぽり隠れるショートカットが似合うラノベ作家志望の女子高生。毛先が跳ねるのが最近の悩み。アニメと小説、ライトノベルと温泉好き。
身長は160cm
スリーサイズは本人の要望で未公表。
石動拓也
結愛の従兄弟にあたる二十八歳の社会人。
社交的なオタク。
結愛の良き理解者。
「う〜……ん、寝ちゃってたのかなぁ……。眠くて目が開かないぃ」
私の名前は、叶結愛。
十六歳の高校一年生です。
趣味はWeb小説を書く事、本を読む事、あとアニメを見る事です。
「んー……もう少し……寝たい……」
私が初めてアニメに触れたのは四歳の頃でした。
テレビ画面の中をピンクのフリフリした可愛い衣装で空を自由に飛び回る二人の少女が、魔法を使って悪い人達を懲らしめる、そんなありきたりなアニメ。
その頃の私は、幼いながらもその魔法少女に憧れを持ち、お母さんにお願いして似たような衣装を作ってもらったり、誕生日のプレゼントにはそのアニメで使用されている魔法のステッキの玩具を買って貰って振り回したりと、そんな幼少期でした。
「今日の体育大変だったからなぁ……もう少し……」
小学校に上がると低学年の時は可愛いキャラクターが出ているアニメとか、中学生くらいの女の子達がアイドルを目指して歌って踊るアニメなどなどなど。
私自身もアニメが好きだった事と、単に可愛いからの一点で毎週テレビの前に座っていました。
「ふぁぁ……ダメだぁ……寝よ……」
しかし、高学年にもなると勉強やクラブ活動など周りの環境も変わり、あまり子供向けのアニメを見る事も無くなりました。何よりも子供向けアニメのストーリー性に受け入れ難いものがあったと言う理由で私のアニメブームは去ってしまったのです。
そんな私に転機が訪れました。私が中学二年生の時の夏休みに、お母さんに連れられ田舎のおばぁちゃんの家に遊びに行きました。久しぶりにおばぁちゃんに会えて嬉しかったり、おじぃちゃんとお話して楽しかったり。おじさん、おばさんと学校の事とか話したり。それでお昼ご飯だから従兄弟の拓也お兄さんを呼んできてって頼まれたんです。
『おぉ結愛、大きくなったな。髪も切ったのか?似合ってるぞ』
『お久しぶりです、拓也お兄さん。何してるん……アニメ見てるんですか?』
拓也お兄さんの部屋に挨拶に行って驚きました。
テレビから少し離れて座椅子に腰掛ける従兄弟の部屋には、様々なキャラクターのフィギュアやポスター、大きな本棚にぎっしり並べられた本の数々。従兄弟はいわゆる……オタクだったのです。
『そういや結愛もアニメ好きだったよな、最近は見てないのか?』
『んー、最近は全然……あ、魔法少女アニメですか?』
『ん、そうだよ』
録画しておいた分を消化してる途中だと言い、丁度オープニングが始まった所でした。そして私は反射的に従兄弟の隣に座り込んでしまったんです。休日の朝に放送されているようなアニメとは全く感じの違う迫力のあるシーンや、その……ちょっとエッチなシーン。とにかく、私が今まで見て来たアニメとは違う魅力を感じ、ちょっとエッチなシーンが流れてばつを悪そうにする従兄弟を気にもとめず、ただただそのアニメに釘付けになりました。
『……どうだった?』
私が見たのは三話だったらしく、正直途中から見始めた事で物語の流れはいまいち掴めなかったものの、独特の世界感と、一見すると不釣り合いと思える可愛いキャラクターが、逆に生き生きしている様にも感じたり、声優さん達の熱のこもった演技に感動したり、それを盛り上げるかっこいいBGMが私を引き込みました。総じて私は
『すごかったです』
と、中学生にもなって何とも中身が無いと思われても仕方ない感想しか言えませんでした。それでも従兄弟は
『そっか、俺もこのアニメすげぇと思うよ』
私に合わせてくれたのかはともかく、同じような感想を言ってくれた事に自分の価値観が認められた気がして嬉しくなりました。
『このアニメさ、気になるなら原作読んでみるか?』
『原作、ですか?』
『そう、原作。このアニメもともとラノベだったんだよ。つか最近はラノベからアニメになるのも少なくないぞ』
『ラノベ』
初めて聞く言葉におそらくこの時の私は、気が抜けたコーラの様な表情をしていたと思います。
『あぁ、えっとライトノベル。略してラノベ』
『ラノベ』
『挿絵が入った読みやすい小説って言えば分かるか?まぁ定義は曖昧なんだけど』
『あ、ノベル。そうゆう事ですか。って言うか、このアニメの原作持ってるんですか?』
すると従兄弟は『ん』と、本棚を指差すと
『そこの本棚、全部ラノベだから好きなの読んでいいぞ。このアニメのラノベは真ん中の段の一番左』
私はすぐに立ち上がり本棚に向かいました。その途中、ふと並べられたフィギュアの群に目をやると、さっきのアニメのフィギュアも飾ってあって、つい嬉しくなって思わず手に取ってしまったんです。
『あっ、おい』
身体がビクってしたのを覚えています。誰だって自分の大切な物を断りなく触られたりしたら嫌ですもんね。だから私は怒られるって思ったんです。でも
『それ、欲しかったらやるよ』
『えっ?いいんですか?!』
気が付けばそのフィギュアを両手で握りしめていました。あ、もちろん壊さないように優しく落とさないようにですよ?
『保存用でもう一個持ってるし、結愛がまたアニメに興味持ってくれて嬉しいから、やるよ』
『あっ、ありがとうございます!』
『ばぁちゃん家いつまで居る予定なの?』
『学校の宿題も持ってきたので、一週間くらいはお世話になると思いますっ』
すると従兄弟は、以外と長いなと思っていそうな表情を一瞬見てた後に
『それならさ、宿題手伝ってやるから、さっさと終わらせた後、暇な時に部屋にあるもん好きに使っていいぞ』
『ホントですか?!やったっ!』
年甲斐も無く(まだ中学生ですけど)ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた私がいました。それくらい嬉しかったんだと思います。自分にとって、新しい刺激が詰まった宝箱の中で泳いでいる感覚だったんです。
それからの私は、ラノベやアニメに没頭しました。
お母さんやお父さんには、勉強や部活を疎かにしない事を約束して、レコーダーやラノベを買う事を許してもらい(と言うか、社会人の従兄弟の援助が多かったですが)何も予定が無い日は、日がな一日部屋にこもっていました。また、図書委員になりラノベでは無いにしろ小説や文庫本を読んで文学の勉強をしたりと……。そう、私はラノベ作家になりたいと思っていたのですーー
「んー。なんで昔の夢なんか見たんだろ……」
高校生になった私は、Web小説を書く事が毎日の楽しみになっていました。中学二年生の夏休み、従兄弟の部屋のラノベを読み漁っては従兄弟と意見交換や考察を繰り返し、いつしか私は自分でもこんな素敵な物語を書きたいと思っていたんです。更にその物語に絵がついて、もっと人気になればアニメになって……。
って、これまでの五つの作品はどれも人気が出なかったんですけどね。それでも私が考えたキャラクターや物語が誰かの目に留まって、面白いって思ってもらえたら素敵だなって思うんです。だから私は、これからも書き続けると思いますっ。
「……なんか、草の匂いがする」
学校から帰り、その日の体育で精根尽きていた私は、自室のベッドで眠っていました。寝落ちによる脱力でスマホを傍らに転がしたまま。
「んー、なんかベッドがごわごわしてるぅ……」
眠気と言う呪縛から逃れられない私は目を開くことも敵わず、閉じたまま視覚以外の感覚で違和感を確かめます。
「水の……音?んー、雨かなぁ、窓開けっ放しだったかなぁ……あ、洗濯物取り込まなきゃ……。お母さんに怒られる……」
やっと思いで呪縛を断ち切り、ひとまず身体だけを起こし開かない目を両手でくしくし擦って目を開きました。
「ーーあれ?草原?」
私が居たのは、見た事も無いくらいキレイな草原の上でしたーー