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殺し屋稼業と青春の日々、そして妹  作者: 四十九院 衛
4/7

放課後、犬猿の仲。

               

                   ※


 柚木家は、先祖代々からの由緒ある殺し屋の家系である。殺し屋に由緒もクソもあるのかと思うかもしれないが、その歴史は江戸時代、幕府につかえていた隠密行動部隊、いわゆる忍者まで遡るらしい。これは親父が酔った拍子に話していた戯言だから、真偽のほどは分からない。

 しかし、親父も、親父の祖父母も、そのまた両親も暗殺者だったし、実際柊吾と朱音は幼い頃から暗殺者として育て上げられてきたので、そういう家系である事は間違いないのだろう。

 そういう仕事ゆえ、両親は今も世界中を飛び回っている。その仕事の一部を両親は『修行の一環』として柊吾に押しつけ……いや、紹介してくれている。

 働き分をお小遣いとしてきちんと口座に振り込んでくれているので、あまり文句は言えないのだが、一つ文句を挙げれば、報酬から相当の額を天引きされる。だって、一人殺して三十万ってあり得ないだろ、普通。サーティーンとか一億ぐらい貰ってんじゃん。

「それはアニメの中の話だ」とか親父は言っていたけど、この話も真偽不明である。

 それでも朱音と二人で生活するには事足りる金額であった。裏ルートで銃弾などの仕事道具を揃えるのに少々かかるが、それでも毎月貯金を積み立てられる金額は残る。

 柊吾は高校生活を、ただ平穏を求めて過ごしてきたのだった。


                   ※


「ちょっと、柚木」


 帰りのホームルームが終わって、拾い上げたカバンと共に教室を後にしようとした柊吾だったが、一人のクラスメイトに見咎(みとが)められた。心底面倒臭いと感じながら、しぶしぶ柊吾が振り返ると、眼鏡をかけた女子生徒が腕を組んでの仁王立ちである。


「……おう、清野か」

「おう、じゃないわよ。先生が職員室に来いって」

「……今日は用事があるんだ。見逃してくれ」

「駄目」


 有無を言わさぬ口調である。もちろん今日、用事など無い。

 紹介が遅れた。彼女は清野(すみの)千春(ちはる)。この三年五組の委員長である。成績優秀、眉目秀麗。よく漫画やドラマで出てくるクラス委員長キャラ。あれを想像してもらえればいい。


「新学期初日に遅刻なんてしたらそりゃ呼び出されるわよ。自業自得」


 厳しい口調でそう言い放つと、清野は柊吾へと詰め寄った。


「ちゃんと職員室行きなさいよ。い・い・わ・ね?」

「……分かった。行けばいいんだろ? 行けば」


 清水の強い正義感は父親譲りらしい。聞いた話によると彼女の父親は警察官で、その世界では名の知れた名刑事だという。自分の仕事柄、そういう奴とはあまり関わりを持ちたいと柊吾は思わないし、彼女自身もあまり交友関係を持とうとするタイプでは無いようだ。ただし、柊吾の度重なる遅刻、サボり、居眠りが流石に目に余るのか、前から目を付けられている。

 再び教室の扉へと向き直って、柊吾は教室を出た。ポケットに手を突っ込みながら、夕日に照らされた廊下を行く。


「……おい」


 柊吾の言葉に、こそこそと後ろを付けてきていた清水はびくっ、として立ち止まった。


「どうしてお前までついてくる。昇降口あっちだろ」

「あ、あんたがちゃんと職員室に行くかどうか見張ってるのよ! 悪い!? これも委員長としての務めよ!」

「それにしても隠れる必要はないだろ」

「は、はあ? 別に隠れてないし。はあ?」


 清野は目を泳がせながら白々しくそう言った。柊吾が溜め息を()きながら再び歩き出すと、先程より慎重に隠れながら、やっぱりついて来た。

 刑事の娘のくせに尾行下手過ぎるだろ。それとも柊吾の背後への嗅覚が鋭すぎるのだろうか。

 殺し屋と刑事の娘が、放課後の廊下を行く。


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