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殺し屋稼業と青春の日々、そして妹  作者: 四十九院 衛
3/7

元気系、襲来。

 その後、遅刻確定となった二人は開き直ってゆっくりと登校した。一年の教室に入っていく朱音の背中を見送った後、柊吾が三年の教室の扉を開いたのは丁度一時間目が終わろうという頃だった。

 柊吾が席に着くと同時にスピーカーからチャイムが鳴り響く。


「新学期初日に遅刻なんて、さすがだねっ。柊吾」


 隣の席の岸和田(きしわだ)夏姫(なつき)がウインクしながら話しかけてきた。ポニーテールを揺らしながら、何故かいつも馬鹿みたいに笑っている天然系女子だ。


「妹のやつが学校来るのにカバン忘れてな」

「にゃははっ。けど私だって間違えて学校にパジャマで来たことあるよっ」


 そういやそんなことあったな。てか、何で天然度合いで朱音と張り合ってんだよ。


「高校生にもなってパジャマは無いと思うぞ」

「いやっ。うち、天然系だしっ」


 自分で言っちゃうのか、それ。


「とりあえず一時間目の授業のノート。写させてくれないか」

「いやー、ごめんっ。ずっと寝ててノートとってないや」

「それじゃ遅刻した俺と大差ないだろ……」


 夏姫はいつも通りの平常運転だ。男勝りなこの性格は天然系というよりは元気系に属するのかも知れない。とにかくよく喋る。そしてうるさい。柊吾は夏姫のそういう所を良く気に入っている。

 強引な社交性を武器に、夏姫は柊月の『初めての友達』というタイトルを見事、獲得したのだった。


 出合いは二年前に遡る。


――よかったら(うち)、あがってく? カレーとかあるよ。

 アパートの隣に引っ越してきたばかりの怪しい兄妹に、初対面でこの岸和田夏姫はそう言ってのけた。軽く挨拶だけしようとしていた柊吾は度肝を抜かれ、それでも何とか丁重な態度でお断りしようとした。が、後ろに立っていた朱音が「カレー……」としきりに袖口を引っ張るので、柊吾は成り行きでお邪魔させてもらう事になる。

 彼女は一人暮らしだった。緊張していて良く覚えていないが、あの時のカレーが非常に美味しかったのは覚えている。その後、朱音が食べ過ぎで倒れたことも。

 それからの日々は押して知るべしだろう。夜になると、毎日の様にやれラーメンだ、おでんだとうちにあがり込んでくる。柊吾からしてみれば感謝の極みなのだが、やっぱり悪い気もしてしまう。夏姫に何度も、気を使わなくて良いと促したのだが「うちが好きでやってる事だし大丈夫っ、問題ゼロ!」と笑顔で返されてしまう。

 かくして、胃袋を完全に掴まれてしまった柚木兄弟は、夏姫と切っては切れない関係となってしまった。……殺し屋に親友なんて、おかしな話だろうけど。


「もしもし。柊吾さーん。聞こえてますかー」


 我に返った時、目の前で夏姫の掌がぶんぶんと反復移動中だった。すっかり過去の思い出に浸ってしまっていたらしい。


「寝坊したうえにまだ眠いなんて……欲張りだねー、柊吾も」

「今日の朝は疲れたんだよ……てか、家の前通る時、起こしてくれれば助かったんだが」

「いやー今日は朝練だったから」

「ああ、陸部のか」


 岸和田夏姫は陸上部に所属している。高校の運動部には朝練習というものがあって、一限の始まる前にみんなで集まって、早くから活動を行うらしい。今日はその朝練習で、夏姫はいつもより早く家を出ていたらしいのだ。


「その分授業中に寝てたら意味ないだろ。学生の本分は勉強だぞ」

「なーに言ってんのっ。高校の授業なんて寝てなんぼのもんよ」

 

 夏姫の言葉に柊吾は頭を振った。それに合わせるかのように二限の始業チャイムが響く。


「じゃ、うちは寝るから。ノートは頼んだ」


 柊吾が何か言う前に、夏姫は机の上に不時着して、そして寝息をたてはじめる。

 もちろん授業の後、ノートは見せなかった。


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