プロローグ 秋
オレの物語。
傷ついた四肢に鞭をうちながら、オレは、暗く、星の光照らされたこの場所を歩く。
歩く、と言うよりは引きずるのほうが正しいけど。
膝の辺りまで、水に水没していて、水平線が見えるほど、障害物も無く、ただ夜の黒を写した水面と、天上の夜の星が、この場所の景色だった。
完璧なほど綺麗で儚く、だからこそ空しい場所。
その完璧な場所で、遠くに光の柱が見える。
オレは、その元に向かって歩き続けていた。
何のためだったか、そんなことも忘れそうになるほど。
ただただ、光に向かって。
そんなことをしても、別に誰かが救われるわけじゃないけど、今度は自分自身を救うために。
辛い、悲しい、寂しい、そう何度も想ったが、だからこその希望があの光にあった。
だけど、人である限り体力に限界はあり、オレは膝から崩れる。
少し飛沫をあげ、水面が波立つ。
溺れないために、水に浸っている体を反転させ、星空に向ける。
水に浮いたまま、オレは瞼を閉じる。
過ぎるのは、過去の思い出だった。
大切な人の、笑顔。
もう一度、会いたい。それ以外確かなものは無かった。
「ねえ、起きて?」
その、愛しい声が、聞こえた気がした。
プロローグ三つ目です。