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つよがりうさぎのひとりごと

作者: 金釘亮

後半が雑なので、後々書き換え予定。



 人間はよく、兎について屈辱的な表現をする。

 曰く万年発情期であるとか、寂しければ死んでしまうとか。

 好き勝手言ってくれるものだ、と思う。

 万年発情しているのではない。どんな時でも生殖ができるようになるだけだ。そもそも女の子たちが排卵するのは生殖行為をした後である。

 寂しければ死んでしまう――馬鹿じゃねえの、と声を大にして言いたい。声帯がないから無理だけど。

 俺たち兎は被捕食者だ。生存競争の激しい自然界において、弱みを見せることは即ち死を招くことに直結する。万一病気になって弱っている姿を晒してみろ、あっという間に獲物認定されてぱくり、だ。だから、病気になってもわかりづらいだけ。それを飼育する人間どもが放置していて気づかず、そのまま死んじまうケースがあるってだけだ。

「ごめんね、小太郎。明日から旅行だから、あずさちゃんの家でご飯食べてね」

 飼い主はそう言って、俺を他人の家に預けた。

 それこそ、馬鹿じゃねえの、と思う。2日3日一羽きりにされたところで、なんの痛痒もありゃしない。飯にありつけないのは問題だが、置いておいてくれれば勝手に食う。

 一度に食べ過ぎちまうのを心配してるなら、問題ない……はずだ。我慢できると思う。うん。

 

 奴らは兎をバカにしてるが、俺たちからしてみれば人間のほうがよっぽどひどい。

 連中は、排卵してもいないのに生殖行為をするのだ!

 なんの意味もなく、ただエネルギーを浪費するだけ。全くけしからんことである。

 生物は何故生殖するのか? 快楽のためじゃないだろう。子孫繁栄――生物の根底に根付いている、圧倒的な本能のためじゃないのか。

 地球生物の面汚しめ。


 俺は逃げてやった。『あずさちゃん』とやらの家から。ケージの鍵をかけずに俺の前から姿を消したから、戸をこじ開けて、開いていた窓から脱出してやった。

 別に人間が嫌いだから逃げたわけじゃない。俺は一回やってみたかったんだ。交尾って奴を。

 一生童貞だなんて冗談じゃない。快楽が目的じゃあない。俺の遺伝子を後世に残さないで死ねるか――ってことだ。

 あのケージの中もまあ、居心地はいいんだが、いささか狭いし、いささか以上に女っ気がなさすぎる。

 さて、どこかに女の子はいないかな、と思って走り回ってはいるんだが。

 人間の街の中に女の子なんているわけがなかった。抜かった。くそったれめ、と思いながら木の下でうんこをぷりぷり垂れ流す。

 うむ、今日も健康だ。

 逃げ出して2日が経っている。飯には問題なくありつけているからいいんだが、目的の女の子がいないとわかった以上、旅行から帰ってきているであろう飼い主にこれ以上心配をかけるわけにはいかない。

 しかし帰り方がわからん。

 い、いや、俺としても遺憾なんだが、どうにもケージの中でずっと生活しているうちに方向感覚が狂っちまったらしい。そもそも『あずさちゃん』の家に行く時には外が見えない籠に入れられていたし。

 ぬくぬくと育ったせいで、俺もずいぶん情けなくなっちまった。


 ……寂しくなんてないさ。

 俺は自慢の真っ赤な目を軽く閉じた。

 種族の象徴の長い耳をピンと立てると、人間たちの生活音が聞こえてくる。

 地の底に這うような車の音。変わった信号の高い音。雑踏の生み出す足音。

「――う!」

 不意に、今日までは聞こえてこなかった音が聞こえた。

 まさかな、と頭の片隅で思う。

「――たろう!」

 目を見開いた。

「小太郎!」

 足が勝手に動き出す。音のした方向へ。

 風のように走る。

 もう、頭の中は懐かしい彼女の顔で埋まっていた。


 遠くに姿が見えた。更に加速する。

 俺の姿を認めた彼女が、驚きと安堵で顔を歪めたのが見えた。


 しゃがんで手を広げた彼女の身体に、飛びつく。

 俺を抱きしめた彼女は、小さくつぶやいた。


「――良かった」


 ……別に俺が寂しかったわけじゃない。

 兎が寂しいと死んでしまうって?

 バカを言うんじゃない。むしろ人間のほうが、死んじまいそうな顔をしているじゃないか。


 人間のほうが情けない。

 そうだろ?


ご精読ありがとうございます。

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