出会い
「マドレーヌ……ブリオッシュ……よし」
すべてを買い終え、代金を払うと、外はもう暗くなりかけていた。
雨も降っている。
「早く帰らないと……」
帰る足を早め、急いで帰ろうとした。
と、その時。
「……!?」
後ろから誰かに口をふさがれた。
もがいていると、耳元で声がした。
「おとなしくしていろ」
それは、地を這うような低い声だった。
身の危険を感じ、暴れるのをやめた。
雨のせいでにおいを嗅ぎ取れなくて、気配を感じることができなかった。
わたし、どうなるの……?
恐怖にかられ、目から涙が伝う。
「うわぁ!」
突然身体の拘束がなくなった。
振り向くと、背の高い男の人が立っていた。
「大丈夫かい?」
どうやら助けてくれたようだ。
よかった……
心に安堵が広がる。
「はい」
わたしは笑顔で答える。
しかし、男の人は、困った様子で私に話しかけてきた。
「これ、君のだよね?」
その人が指さす先には、雨に濡れ、地面に転がっている袋があった。
中のものもほとんどが地面に転がっている。
「あっ、いけない……!!」
これじゃ、ノア様に渡せない。
どうしよう……!!
頬に、雨とは違うものが伝う。
それは、とても暖かかった。
「何か訳があるようだね……。どうしたんだい?」
男の人が優しく聞いてくる。
その優しい声に、すべてを話してしまいそうだった。
でも、獣人のわたしなんかが、人様に頼ってはいけない。
「いえ、何も……ないです……」
声が震える。
言葉が詰まる。
すると、男の人が私の頭をなでた。
大きく、優しい手だった。
その暖かさに、また涙があふれた。