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始まり
わたしは、貧困街で生まれ育った獣人だった――。
「ラス、ラス!?」
ノア様が叫んだ。
わたしは慌てて駆け寄る。
「なんでしょうか、ノア様」
するとノア様は、目を吊り上げて言った。
「一時までに洗濯しとけって言ったでしょう!? どうしてやってないの!?」
時計の針は一時半を指している。
「すみませんノア様。忘れておりました……」
そうわたしが言った瞬間、空気が揺れて鋭い音が響いた。
わたしは尻餅をつく。左頬をおさえている。
「本当に愚図でのろまね。ちゃんとしとくように言ったはずだけれど?」
「ごめんなさい……すみませんでした……」
叩かれた左頬から手を放し、わたしは額を床にこすり付けた。声が震えているのが自分でもわかる。
「ふ、まあいいわ。次からはちゃんとやっておくのよ」
わたしを罵って気が晴れたのか、ノア様は自分の部屋に向かっていった。
許されたわたしはゆっくりと立ち上がり、洗濯物をしようと脱衣所に向かって歩き始めた。