嬉野日記date4/28
---親愛なる太宰先生は私小説家だから僕も日記形式で自分の熾烈化する日常を綴ろうと思った。というのがこの日記が誕生した経緯ですが、御理解していただけたでしょうか? この日記を御覧の未来の僕、並びに家族の皆様。
嬉野三田彦というのが僕に与えられた名前というもので、何も異論は無い。父親が東京の三田という所を自分の田舎よりも愛おしんでいたので三田に誉められるほどの男子ということで彦を付けたのだ。
しかし名は体を表す、とはならなかったのが僕なのだ。
誉められたものじゃない。
僕はイジメラレテイル。
これが僕の現状。
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嬉野はそこで鉛筆を置いた。
ベッドの中に潜り込んで芋虫のような姿勢でノートに文字を書き込んでいた。
そして溜め息をつく。自分の中にある汚物を体外に排出したような清々しさからきた溜め息だった。久しぶりにこのような溜め息をついたので嬉野は少し微笑む。
「ふ、病んでるよ。僕は病んでますよ」
病んでいる。それは嬉野の精神である。学校にいる虐める人間たちに理不尽にも痛めつけられた精神。
今日は学校のトイレに思い切り倒されそうになった。
嬉野をトイレの床に倒そうとした生徒は、
「床に倒して、足でゲシッゲシッてしてやるで、げへへへへ」
と表現の乏しさを露わにして言った。
実際にそこまでされたわけではなかった。途中で他の生徒が入ってきたので仮名虐める生徒aが嬉野から離れたのだった。
「aは僕を虐めることを楽しんでいるのだよ。僕のことを奴隷だの、人間ではないなどと呼ぶんだから」
生徒aは周りの生徒に嬉野を虐めているのを見せて笑いをとっていた。ガム取り用冷却スプレーを嬉野に吹きかけ首や腕、顔の肌を凍傷寸前までにしたり。反射神経テストと称して自分の拳を嬉野の顔面にくり出しワザと間をずらして打撃を与えた。その時、嬉野の口から血が出た。生徒aの拳にも嬉野の血が付いていた。生徒aは不快そうな顔をした。
「うわ血が付いてる。汚な。ふきふき」
そう言いながら嬉野の制服で自分の指を拭いた。
「あの時はほんとに、ほんとに脳みそが真っ黒になったんだよ。生徒aに非合法的非人間的行為をしてしまいたいと思ったね」
嬉野は独りごちる。手でノートの一枚をかきむしった。雑な音をたてる。
「でも、でもそんなことはできない。僕は優しい人間なのさ。優しさだけが取り柄なのさ。完全犯罪に出来るトリックを3つほど考えたけどそんな凶悪なことはできないね」
教師に相談すれば良いのかもしれない。しかしそのことで周りにどんな目で見られるか。
生徒aが嬉野を虐めるのを見て周りの生徒も嬉野を言葉で虐めるようになってきた。
「日常は酷くなっていきます」
嬉野は眼を瞑った。そのままの体勢で眠りに落ちた。
明日は土曜日で、休みだった。
嬉野に待っているのは絶望か希望か。これから迫り来る世知辛い日常に嬉野は立ち向かってゆく・・・。被いじめ引きこもりオタクの少年が日常を綴る灰春ストーリィ。