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女神様の落し人  作者: 湊美耶子
本編
4/6

第4話 妻、解す

一応これが最終話です。




 夕刻、地球で言えば午後6時頃、異世界時間:酉刻(とりのこく)


 フミが初めて見た異世界となった召喚された場所、聖堂で婚儀式は厳かに執り行われている。

アンドレア国王に言われた長ったらしい祝詞の一節が真面目に聞いていたフミの眠気を誘う。

だが、フミはこの儀式の主役だ。ついうっかり眠くて寝ちゃいました、えへ。などととんでもない。眠ってしまってはいけない。寝てしまえば恐らく最期と言う名の永眠だ。フミは何か別のコトを考えることにした。


 そう、忘れてはならない。自分は生贄だ。生贄が寝こけてたら神様モドキは怒るだろう。最悪殺されるかもしれない。

フミはチャンスは作るものだわと自分が捧げられる神様から『逃げる』もしくは『懐柔する』にはどうしたらいいのかと還るために頭を捻ってみることにした。


―――しかし、2刻ってもしかして2時間くらいだったのか。やっぱり異世界わからんわぁ。そして何の神様の生贄なんだろう?ペクテーヌ様じゃないことは確かだと思うけど。あーなんかやっぱり聞いとけばよかった。何かの方法で神様のご機嫌を取る→神様のご機嫌なときに還りたいという→神様が了承する→神様に元の世界に還してもらうまたは宮廷魔術師に還してもらう→完璧っていうプランしか思いつかないなぁ……小説とかマンガってどうだったっけ?なんか還らないで現地人と結婚してとか、恋人作って幸せに暮らしました、ハッピーエンド。ばっかりかも……うぁ……イケメンならまだしもブサ神だったらどうしよう。殴っていいかな、いいよね、うん殴ろう。いや、駄目だろ、死ぬって自分。あ、神様の願いを叶える系かなぁ?いや、神様だから自分で叶えろや、そんなの聞いたことないわ……そういえば隣で腕組んでるこの可愛子(かわいこ)ちゃんは何だろう……あぁっ、護衛のイケメンさん……英国の王子様と同じ名前ってなんかウケるwアンドレア国王もモナコのイケメン王子様と同じ名前だからすぐ覚えられたもんね!で、護衛のウィリアムさんが本日は宮廷魔術師がフミ様の隣に居りますので、とか言ってた気がする……うわぁっ!魔法で逃げないようにされてんのかー!ウギャー!気づかなかった!!!何素直に腕組んじゃったのかな、私!いや、だってニコッて爽やかにこの青髪イケメン君が笑うんだもの!!!なにその髪の毛、真っ青じゃないの!どこのマンガのキャラなのよ!って仕方ないじゃない、イケメンに免疫ないのよ!ってかこのイケメン君いくつなのよ?ずいぶん若い気がするんだけど?優秀なのか?きっと将来有望株魔術師とかなんだな。でも有望株にこんな生贄の拘束させるって変な気もするなぁ、普通こういうのは経験値高そうな……見た目の年齢と違うのかも!どうしよう……後で年齢聞いてもいいかな?いいよね、うん、聞こう。ヤダ、私って頭冴えてるわ。自分の魔力が多いとかいう妄想もあながち間違ってないかも!偉大な私の魔力で突破とかできないかな?いでよ、炎!…………恥ずかしいだけだった!ど、どうしよう!?帰還プランAしか思いついてない上に、魔法がある世界で魔術師同行ってもう既に生贄は胃袋へコースなんじゃないの?そうだ、このイケメン君を私の魅力でロメロメ……じゃなかったメロメロにして逃亡の片棒担がせて……うん、そんな容姿じゃないのはわかってるけどね!召喚されたとき誰も見惚れてなかったし!……ううう、だんだん怖くなってきた……―――


「それでは新郎・新婦は誓いの署名を」


「はい」


「(あっ、なんか言われた!)……はぃ……(声裏返っちゃった……恥かしすぎる……)」


 なんだか隣の魔術師様に羽ペンのようなものを渡された。ようなものというか羽ペンだった。

恐る恐る顔を合わせるとにこりと柔らかく微笑んでくれた。イケメンの微笑みは癒される……じゃなくて、目線と仕草からさぁこれで書くんだよと言うことらしい、まぁ、当たり前のことだが。


―――しかし生贄に署名させるって何?しかも文章やっぱり読めないし。あれか最終的に食べられても文句はいわねぇぜ!ってやつか!チクショー!だが、断る!…断固こ、……とわれないよぉ……みんな睨んでるよぉ……あ、せめてもの抵抗に偽の署名しちゃる。大体、歩美をフミと呼ばせるほうが違和感じゃっつーの。齋藤富美にでもしておくか、どうせ漢字読めないだろうしっ!―――


ちなみに参列者は睨んでいるのではなく真剣な眼差しを二人に送っているだけである。

結婚式にへらっへらするのは恥ずかしい幼少時などの映像VTRを流されたときくらいであろう。

だが、新婦フミは結婚式と気づいていないので仕方がない。

偽の署名を使い慣れぬ羽ペンの為かたどたどしい筆跡で書き終えたフミは、羽ペンを受け取るように待ち構えていた左隣の魔術師に恐る恐る返し、書面から正面の神父とゆるりと眼を合わせる。

書き終わったことを了解したらしい神父が次の台詞を口にした。


「最後に新郎・新婦は誓いの口付けを」


ス、と滑るようにイシュライラの右手がフミの左頬に添えられる。左手は一瞬戸惑ったもののフミの右腰を支えるように置いた。間違った考えで身体が固まるフミなので微動だにしないため、身長差がある為かスムーズに口付けが出来なかったようで、イシュライラは一瞬思案すると自身の身体を屈めて触れるだけの口付けをした。


―――あるぇーっ!こいつが神サマだった!拘束係じゃなかったんかぃ!騙された!私もう食べられちゃうじゃないの!!!トリップ2日でバッドエンドなんてやだよぉ~!!!―――


口づけをされてようやくフミは気づいた。

左隣の魔術師が自分を食べちゃう神サマであるコトを。

そして気づかなかった。

隣の彼が署名してから羽ペンを渡したことと、新郎・新婦と言う神父の台詞に。

かなりのドジっ子(という年齢でもないが)である。

そして、恐怖に耐えられないのか、じわりと涙を浮かべた。

小説だってマンガだってハッピーエンドばかりじゃないって判ってるし、今回も騎士様とか王子様(ただしイケメンに限る)に助けてもらえないのは判ってたけど、コレじゃあんまり短すぎやしませんか、と。


 だが、人は恐怖のとき、笑みを浮かべるという。

イシュライラには、口角の少しばかり上がった微笑と恐怖のために小刻みに揺れる身体とうっすらと涙を浮かべた瞳というオプションが付加されたフミに見えている。

かなり盛大に誤解していた。


―――27歳って嘘なんじゃないですかっ?!可愛いです、フミさん!!!緊張していますね!!!僕もしています!!!でももう終わりですから!!!あとはウチに帰って新婚旅行先を決め……初夜です!!!初夜!!!ショーヤーッ!!!―――


彼の妻となった女性に対する思いやり(と妄想含む)と言う眼力は当の本人にはまったく通じていなかった。


「これにて婚儀式は終了です。お二人ともお幸せになれるよう時には努力もいたしましょう。あなた方は特に女神ペクテーヌ様が見守ってくださいますでしょう」


神父が言い終えるや否や、式場にバタッっと大きな音が響いた。

新婦、フミが気絶し倒れたのだった。

周囲は騒然とした。

そんな中、国王は静かに言った。


「フミからすれば誰も身内のいない式だったのだ。いままでの緊張が一気に解けたのであろう、すぐに帰って休ませてやれ」


……国王もフミの極限状態の理由をいまいち判っていなかった。




 夜、地球で言えば午後8時頃、異世界時間:戌刻(いぬのこく)


 フミは質の良いベッドと調度品に囲まれて目覚めた。どうにも寝起きのせいか、頭がすっきりしない。

とりあえずまだ自分は食べられていないと言うことだけ判った。

 傍には自分を心配そうに見つめる男がいた。儀式のとき隣にいた魔術師もとい、神様だ。


「…んー?すぐには食べないのかな?」


寝ぼけた頭にはコレが精一杯だった。


「……え、すぐ食べるっ?!そ、そんな、寝ている女性を襲うなんてしませんよ、僕!」


というか出来ない。魔術に貢献すべく生まれてきて尚且つ育ちましたというような華麗な経歴である彼に女性経験は皆無。女性に免疫もなく、実際は食べる=性交すると一応フミとのやり取りの中では正確に変換しているただのムッツリスケベ、ただしイケメン。要はやり方いまいちわかんねぇ……のである。アイタタタッ。


「……僕っ子?……で、1000歳超えてるとかなの?」


僕っ子は女の子に使用するものの気がするがそこはスルー、あくまで彼女は寝起きのボケボケ状態である。


「え、1000歳???僕は17歳ですけど……?」


「え、若いねぇ……こんなオバちゃんが生贄でゴメンねぇ……で、キミは何の神様なのかな?青い髪が綺麗だから水系の……竜神様とかかなぁ?水神様とかも似合いそうだねぇ……ペクテーヌ様は女神だっていうし、その彼氏さん?」


「い、生贄だなんてとんでもないっ!あなたは僕の救世主です!……それと僕は人間です……」


なんだか、とんでもない誤解をされているとイシュライラは気づいた。


「え、人間なの?……人間なのに人間食べるの?」


救世主とまで言われたのに気づかない彼女はかなり空気読めない才能がある。


「え?食べませんよ???」


「じゃぁ献儀式って何?実はキミは運搬役とかなの?っつかこのベッドは何?と言うかココは何処?」


やっぱりなんか変な誤解をしてる……イシュライラは質問に対し、丁寧に回答することにした。


「婚儀式は婚儀式ですけど?僕は今日からあなたの夫で、ココが僕たちの自宅ですが?……陛下から何も聞いてませんでしたか?えーとベ、…ベッドとは何でしょう?」


「ベッドはえー……日本語で布団…違うな、……寝台のことだよ?……へぇ、私の夫なんだ……夫ッ!?旦那さんってこと???」


「はい……幸せになりましょう、フミさん!寝台はモチロン僕達が寝るためですよ!いやぁ元々大きい寝台が好きで。決してすぐ準備したとかではないんですよ!?僕も今日の朝知ったばかりですし!!!」


実は女神のお告げがあって眼を覚ましてから速攻で二人用寝台(ダブルベッド)を買いに走ったなどと言わない。

開店前の時間だったから店が開いてなかったので、自分の魔法で二人が夜に心地よく過ごせるようにと言う名の誠心誠意と下心を込めて造ったなんてもっと言わない。

イシュライラ氏曰く、だって新婚さんは一緒に寝るって決まってますから!とのことらしい。


「え、ハイ、ありがとう?か、勘違いしてた……もしかして婚儀式か……結婚式ね……結婚式……フーフフフ、フー……いやいやいやいやちょっとまて、キミ17歳とか言ったよね?17歳とは結婚出来んでしょっ!?」


新婦は、夫=結婚した=結婚式やった=婚儀式だったのか、という図式でもってようやく現状を理解したらしい。


「17歳でも出来ますよ?」


「え、この国何歳から結婚できんの?」


あぁ、異世界だった。日本と法律違うんだったか、と気付いた。


「男女ともに16歳です」


美青年にニコリと微笑まれ、フミは郷に入っては郷に従えと言う諺を身をもって経験せざるを得なかった。

が、ソレとこれとは別である。イキナリ結婚とかどこの乙女の妄想マンガまたは小説の世界だ、と。とりあえず自分より相手を思いやってみた。


「……人生早まっちゃいかんよ、早まっちゃ。キミみたいな若い子は遊んで遊んで遊び飽きたら結婚すればいいじゃない」


「えっと……僕、勉強というか研究が趣味みたいなものなので……仕事と趣味を兼ね備えたのが間違いだったのか、流石に研究だけの生活には飽きたような……衝撃が激しかったというか……」


衝撃とはこの世界に自分と結婚して自分の子供を成すことができる女性の存在がいないということである。

無論フミはそんなこと露も知らない。


「仕事と趣味を兼ね備えたって……上手く生きてるねぇ。私も趣味を仕事にしたかったけど才能なかったんだよねぇ……」


なんかコイツ結婚に前向きだな……とフミは思った。よっぽど基地外(アレ)なのかな、とも思った。ただ、話していて全くそういう感じではないので判断に困っていた。一目惚れされたとは全く気付いていないのである。


「どんなご趣味なんですか?」


「んーとね一番は旅行が好き。あとお菓子作るのも好き、読書も好き、いっぱい好きなのあるの!」


旅行好きならツアコンとか客室乗務員とかだけど、旅行会社なんて軽く面接で落ちたさ、とフミは自棄気味で話し続けた。彼女の悪いところは勝手に自己解釈をすることである。


「わぁ多趣味なんですね、凄いなぁ。フミさんの作ったお菓子食べたいなぁ」


素直に賞賛しつつ、イシュライラは妻の技能(スキル)弱点(ウィークポイント)と言う名の大多数の日本人の欠点を分析をしていた。結論としてはとりあえず褒めとけばいいかも。安直であるが、褒められるということが少ない日本社会で生きてきたフミはくすぐったそうに返答をしてくれた、食べたいと言われたのが嬉しかったらしい。


「ん……甘いモノ好きなの?」


「ハイッ!」


とびっきりの笑顔で答えるとフミは赤くなって、ココの生活に慣れたら作るよ、と返したのだった。


 兎にも角にも初夜は自分達がどんな関係かの整理で終わった。


 そして、その日の夜が初夜であるということを気づきもしなかったフミは、ようやく次の日の夜になってから昨日が初夜だったことに気づいた。その夜に、ちなみに私処女じゃないからゴメンねぇと呟きつつ、イシュライラを押し倒した。ちなみに彼女が押し倒した理由はこんなイケメンとするチャンス滅多にないもの!である。意外に肉食系女子であった。それと家庭内ではごく自然に妻であるフミが主導権を握った瞬間でもあった。




   ~*~*~ エピローグ ~*~*~



 異世界時間3ヵ月後。


 フミが暮らしていくうちに判ったことは、一週間と一ヶ月がやたら長いことだった。

この世界は12が基礎の数字らしくて、一日は12の2倍で24刻、つまり24時間ぐらいなんだが、一週間は12日あるし、一ヶ月が12週あって、一年は地球と同じく12ヶ月、一年=1,728日もあるのだ。ちなみにこのディリトア王国は四季もある。

 つまり、異世界の1年は地球時間で考えると5年分くらいあるのだ。夫であるイシュライラは17歳って言ってたけど、それって軽く地球人換算80歳くらいじゃないのか?と気付いても後の祭りなのである。

 ただし、彼本人の見た目から判るように、その分地球人とは成長と老化のスピードも遅いようである。


 はて、それでは自分はどうなるんだろうか?そもそもココに来て3ヶ月ほど経ってしまったし、つまりは地球時間1年以上経ってる。


「あれ?でもコレってハッピーエンドなオチじゃない、私?……そして生理全くこなくね?」


 歳の離れた(しかも年下なのか年上なのか良くわからない)イケメンの将来有望な、現在は宮廷魔術師として城で勤めを果たしているであろう夫を持った異世界から来た新妻は、ある日洗濯物を干しながら呟いた。

確かにトリップ初日や二日目は不安だったが、生活が安定してきた今、地球時間換算では一年も経ったのだ、生理が来ないというのはおかしすぎる。詰まるところどうやら身体は異世界仕様に変更されているらしい。


「……妊娠検査薬とかあるのかな、この世界?」


 今更なんだけど、『結婚』おめでとう。

『第二の女神様の落し人』の誕生おめでとう。


 そして最後に、偽署名は結局何のフラグも立ちませんでした。

だって……この国漢字文化じゃないんだもんっ!




異世界トリップセオリー其の十壱:「異世界人と結婚する」見事クリア。


異世界トリップセオリー其の十弐(?):「異世界人との子供を産む」もうすぐクリア。











 読了、お疲れ様でした&ありがとうございました。

女神ペクテーヌ様は説明が足りなさ杉、フォローしなさ杉、ですねっ。

イイのよ、神様だもの、勝手なの。


 次回作も同じ世界に日本人をトリップさせますのでよろしくお願いします。

番外編も適当に作りますのでリクエストがあったら言ってくださいませ。

可能な限り答えたいと思います。



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