第1話 女、落ちる
突如、女は異世界に落ちた。
ドチャッ
と言うそりゃ~もう情けない音と
「ゥギャッ」
というかわいらしくもない悲鳴を上げて、だ。
大人数でお祈りしているところに落ちた。
落ちてから周りを見渡す余裕ができたその瞬間「裸でなくて良かった」と女は真剣に思った。
何せ落ちる前は、お風呂に入ってすっきり爽快、寝る直前!というところだったのだ。
女はかわいい黒ニャンコが踊るおニューのパジャマを着ていた。
冷え防止に、と、もこもこ靴下も履いていた。
しかし、寝れなかった。
落ちたからだ。
ベッドに入って電気を消した瞬間に「落ちた」のだ。
落ちた先では先ほどもあったように、なにやら集団で女神様のような白亜の像の前で熱心に祈っていた。
落ちた女と祈る集団との勿論初めての迎合である。
呆然とするしかない両者たちであった。
それからしばらくして、一人の男が我に帰ったようであった。
その男は一言で言うなれば、偉そうだった。
理由は服装にある。
眼に飛び込んでくる色彩情報が白、緋色、黒、金と銀で、ロココ調の男性貴族服といえば分かるだろうか、とにかく細かい刺繍で彩られているため、女にはそう思わせたのだ。
そして偉そうな上に美形だった。
今時の言葉で言えばイケメンだった。
偉そうなイケメンは優雅な動作で女に近づいていった。
足音なんて立てない。
ス、と女に手を差し出してきた。
立て、ということらしい。
女はまだ座り込んでいたのだ。
落ちたという感覚はあったのだが不思議と痛みはない。
「あ、ありがとうございま…す…」とこれ以上のイケメンに出会ったことがない緊張丸出しの女がお礼を言うと、「話ができるようで安心した」と冷静に返された。
言葉が通じないのは非常に辛い。
英語すらろくに喋れないのに海外旅行に行っちゃって簡単な買い物するにも一苦労!
のような方には言わずもがな、だろう。
恥ずかしくてイケメンをまともに見れない女ではあったが、この異世界トリップセオリー其の壱「言語はなぜか日本語」は本当に嬉しかったと考える余裕はあった。
女が「そうですね、良かった……」と安堵したところで、イケメンは「こちらも未だに何が起こったのかが理解できていない、別室で座って話をしよう」とのことだった。
別室と言われた大きい長方形のテーブルがある会議室に案内されて、イケメンの前に当たる席に案内されたのでソコに座る。
イケメンには、失礼だが兵を背後に立たせてもらうがどうか?と言かれ、女は(どうせ拒否権もないでしょうから)構わないと冷静に返すことができた。
偉そうなイケメンを筆頭に、白いフードを被ったこれまたやっぱり偉そうな魔法使いもどきや、お貴族様ですが何か?というような風貌及び服装のハゲジジィ共に、何故ココに落ちたのか?何処から来たのか?という質問をされたが、女は、分からない、知らない、という言葉ぐらいしか返せなかった。
しかし、落ち着いていたかに見えた女はココが自分の住んでいた日本でもなく、その日本のあった地球ですらなく、異世界だと確信したことによって、だんだんと興奮してきたようだった。
両手をボールを持つような形にし、上下に振る。
顔を赤くさせ、何で自分が!と考え始めた。
「異世界に来たらさぁ…こう何かあれじゃん?あるじゃん?」
やはりいきなりの異世界トリップで何故此処へ自分が連れてこられたのかという説明が興奮してしまい、難しい。
「……こうとかあれとか抽象的過ぎて頷けぬ。何か具体例を言うてみよ……」
一番偉そうな、お美しいイケメン様が口を開く。
喋り方も優雅というか雅だ、おそらく王とか皇帝とかまぁ、そんなやんごとなき身分の人なのだろうと女は直感で思った。
そういえば双方自己紹介とかしてない……まぁ、いまさらか、とも思った。
「えと、あなたが次代の王妃です!とか、暴れ竜を説得してほしい!とか、さぁ勇者よ、魔王を倒せ!とかさぁ……あぁ、待っておりました愛しいあなた。そう、あなたが運命の人です!とかさぁ……あと何だっけ?あなたが女神です!とか、曲者め、出会えー出会えー!とか、あとは、とっておきが、これで生け贄が揃ったぞ!くっくっく!かな……?」
「ふむ。一つづつ回答しておこうか。……私が国王だ。妻はいるが、暴れ竜などは居らぬ、勇者も特に求めておらぬ。運命の人はさっきも言ったが妻がいるので別に必要ないぞ。女神もペクテーヌ様という方がいらっしゃる、しかもお前に似てない、まったく似てない。あと曲者なのは確かだが、これだけの目撃者を前にしておいて、さらに兵士を呼ぶということは危険だな。混乱に乗じ、お前が逃げやすくなるようなものだ。最後だが、この儀式は生け贄を召喚していたわけではない、女神ペクテーヌ様に国の安寧をお祈りしていたところだ、それとそんな阿呆な笑い方は余はせぬ」
やっぱり目の前のイケメンは国王だった。
異世界トリップセオリー其の弐「即、国のトップに出逢える」及び其の参「即、美形に出逢える」は難なくクリアした。
「曲者は決定かい!そして似てない2連呼だけがやったらムカつく、じゃぁ何のためにここに来た、私!」
ようやく言えた。
たった10文字を言うまでが長かった。
「知らぬ」
しかし国王による返答は早かった、しかも短かった。
「ドチクショーッ!!!」
頭を抱えて後ろへ仰け反る。
髪の毛を両手でワシャワシャするのを忘れてはいけない。
「お前の世界ではソレが普通か?激しいな……」
片眉をひそめ、国王は問う…というよりは呟いた。
「27歳で異世界トリップって普通じゃないだろ!ってかあたしは基本口悪いっ!一人称も気分により適当だっ!」
えっという驚きが周りから漏れた。
国王も若干目が見開いている。
中世ヨーロッパみたいな格好をした周りの見た目からして、「えっ」に続く台詞が、「信じられないザマス!」だと女が思ってしまったことはテレビの見過ぎであって特段何の罪にも問われないだろう。
要は27歳に見えないのだ。
モンゴロイド系の顔は総じて幼く見える。
この別室に座っている者たちは国王を含め、コーカソイド系統依りの顔立ちだった。
「27か…18,9程度と思っていたのだが」
国王が周りの声なき声を代弁する。
だが、国王自身は本当は15,6に見えた……が言えなかった。
なんとなく10歳以上の差は開けないほうが良かった気がしたのだ。
「人種の違いで若く見られるんじゃい……っておお、やっぱり異世界でもセオリーか。実証されたぞ、ママン!おいらはやったよ、パパン!でもさすがに高校生は見えなかったよ!いやぁ良かった良かった」
セオリーとはきっと使い方からして法則とか原則とか言う意味だろうか、しかしママンとパパンとは誰であろうか、学者か何かだろうか?と考える国王。
どうやら英語系の意味は通じないらしいが、女の使い方で何となくセオリーの意味はわかったようだ。
そして女の考える異世界トリップセオリー其の四は「日本人はどうしても若く見られる」のようだった。
至極どうでもいいが、あとどのくらいセオリーがあるのだろうか?
……そこは追々女が説明してくれるだろう。
「ふむ、喜んでいただけたようで何よりだ。しかしだな、還してやりたいのだが、方法が今のところない」
「うぁぁぁぁそこはセオリー踏襲しなくてイイ!」
異世界トリップセオリー其の五が判明。
「すぐには帰れない」ようであった。
そして何故こう感情表現が激しいのだろう、日本と言う国はそんなに激しいお国柄なんだろうか。
室内の者全員が思った。
女の所為で大和撫子という言葉の意味が信じてもらえなさそうである。
「まぁ、落ち着け。そんなに帰りたいのであれば全宮廷魔術師および個人研究魔術師にお前の帰還方法を探らせよう、とりあえず安心しろ」
このような時に権力は使われるべきだからな、と以外に爽やかに笑い、国王によって『異世界人帰還方法の探索』命令が発布された。
「うん、わかった。勝手ながら衣食住は頼んますネ!あとついでにお城の中で働くからお仕事くださいっ!あ、自己紹介!わたくし斉藤歩美と申します。あ、フミが名前でサイトウは氏です、27歳独身、日本での仕事は役所で働いてました~ヨロシクっ☆」
自分に自己紹介に対しても艶やかに笑んだ国王を見て「いやぁ、どうにかなりそうじゃーん♪」と考えた女ことフミ。
暗くなってても事態は打開しないことからフミは脳内スイッチを「明るいフミちゃん」に切り替えた。
というかもともとスイッチは明るいだった気がする。
「いや……もっとしんみりしたらどうだ……」
フミはハイテンションで挨拶をし、笑みを浮かべていた国王を含め別室に集まった者全員を呆れさせた。
勿論国王だけでなく話を聞いていた別室内の誰も、否、たった一人を除いてが「コイツ順応力高すぎる……」と思った。
この場で一番若いであろう魔法使い風の男、少年よりの歳若い青年、おそらくは宮廷魔術師である~たった一人~が、顔を真っ赤から真っ青と交互に変化させ、「いや、でもまさか27歳……いや、でも独身って言ったし……女神様が叶えてくれたんだよね……フミさんか……ご趣味は?とか聞かなきゃ駄目だよね?いや、まず自己紹介からか……いや年下ありですか?のほうがまず先だな……いやいやいや直球すぎるか……」と高速で呟いていたことは真白いフードを被って口元が見えづらいこと、輪をかけて声が小さいことと、フミが通る声で自己紹介をしていた所為で、何と誰にも気づかれなかった。
どうやら異世界トリップセオリー其の六「無駄にモテる」が発動したようである。
異世界トリップ物が書きたかったんだ。
反省はしてない。
そして一話完結型で読めるように書きます。
なんせ自分が飽きると困るから。
皆様が期待してるような逆ハーにならないかもしれない…。
そして早速手直しました。
読みやすくなったかなぁ~?程度です。