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あの日の自分に

掲載日:2026/05/20

短編です

 さてどうしたもんか。

 数日前、遺失物保管課なんて言う堅苦しい名前の課から、封筒が届いた。中身には「あなたの落とし物を保管しています」と書かれていて、始めは心当たりがなかったから無視しようと思ってたんだけど、書類の最後に、「引き取りにいらっしゃらない場合、処分される場合があります」と書かれていたから、一応、とその部署に行ったんだ。だって、覚えてないだけで大事な物の可能性もあるし、心当たりないけど財布とか?だったら絶対悔しいし。

 その部署は市役所の中にあったけど、一度も入ったことのないような、地下の奥まった場所にあった。なんか怪しいと思いつつ、ドアをくぐると、小太りのおっさんが俺を見て顔を明るくした。

「あぁ、○○さんですね」

 なんていうからハイって返事しちゃったけど、なんで俺の事知ってるの?って話だよな、しかも、その失くしたものの詳細を聞いたら、大きいモノだから、お届けしますって絶妙にかみ合わない返事をされて、そのまま書類にサインさせられた。いや、サインした俺もバカだったとは思うんだけどさ、数日後届いたのが、まさか人間だとは思わないじゃん?

 「お届け物でーす」って聞こえたのに、人は誰もいなくて、大きな段ボールの箱だけがそこにあった。届けるって言うなら部屋まで運んでほしいものだ。

 なんとか部屋に運び入れて、箱を開けると丸坊主の学ランを着た高校生が入っていた。

「まてまてまてまて・・・・」

 俺、もしかして犯罪者になっちゃう?

「あんた、未来の俺?」

 箱から出てきた男子高校生にそう聞かれ、まじまじと姿を見ると、確かに高校の時の俺によく似てる。制服も俺の通っていた高校の物だ・・・。

「え・・・・どういうこと?」

「ねぇ、俺って今何してんの?」

「何って・・・普通に会社員だけど?」

「え・・・声優になってないの??」

 ドキリとした。高校生の頃、演劇部に入っていた俺は、友人たちと同様に華々しい声優や俳優の世界を夢見ていた。いつかTVに出るような大スターに、もしくは有名なアニメ作品や映画の吹き替えを担当して、ビッグな演劇人になってやる!そう、思っていた。

 そんな丸坊主の夢は、両親の心無い一言で、打ち砕かれた。「お前には無理だ」「そんなに演劇がしていたいなら家を出ていけ」高校生の俺には、自分の夢をボロボロに打ち砕くには十分すぎる言葉だった。

「俺・・・は・・・演劇は今は・・・やってないんだ」

「・・・そっか」

 明らかに落ち込んだ顔をしている。この顔には見覚えがあった。両親を説得しようと何度も進路について相談したのに、両親は忙しさにかまけて、話を聞いてすらくれなくなっていた。そのころの俺の顔。

「まぁ、そうだよな、声優なんて、あやふやな仕事だし・・・俺がそんな、夢見るなんて、おこがましいよな!」

 涙をこらえながら笑う顔、何度も何度も見て来た。もう、それは見飽きたんだよ。

「俺は、今声優になってない。・・・でも、お前がなれないかどうかはわかんねぇよ。だってまだ試してもいないだろ?諦めるのはさ、どうすれば声優になれるのか、ソレを一緒に探してからでも、良いんじゃねぇの?」

 俺が、この時言ってほしかった言葉。ずっと誰かにそう言ってほしかった。

 高校の頃の俺は、ソレを聞いて、少し笑って消えていった。


 後日、俺は会社を辞めて、友人の経営するカフェでバイトを始めた。

「あらぁ、お兄さん、いい声ね」

 なんて言ってくれるマダムのお客が増えて、友人も俺がバイトに入ることを喜んでくれた。

「ありがとうございます、実は昔声優目指してまして」

 なんて言葉を、心苦しくなく言えるようになったのは、俺が、俺に、かけてほしい言葉をかけてくれたからかもしれない。

 会社員時代の貯金を崩しつつ、俺は、演劇の学校に通うことにした。


——少しずつ、少しずつ——

夢はまだここに

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