あの日の自分に
短編です
さてどうしたもんか。
数日前、遺失物保管課なんて言う堅苦しい名前の課から、封筒が届いた。中身には「あなたの落とし物を保管しています」と書かれていて、始めは心当たりがなかったから無視しようと思ってたんだけど、書類の最後に、「引き取りにいらっしゃらない場合、処分される場合があります」と書かれていたから、一応、とその部署に行ったんだ。だって、覚えてないだけで大事な物の可能性もあるし、心当たりないけど財布とか?だったら絶対悔しいし。
その部署は市役所の中にあったけど、一度も入ったことのないような、地下の奥まった場所にあった。なんか怪しいと思いつつ、ドアをくぐると、小太りのおっさんが俺を見て顔を明るくした。
「あぁ、○○さんですね」
なんていうからハイって返事しちゃったけど、なんで俺の事知ってるの?って話だよな、しかも、その失くしたものの詳細を聞いたら、大きいモノだから、お届けしますって絶妙にかみ合わない返事をされて、そのまま書類にサインさせられた。いや、サインした俺もバカだったとは思うんだけどさ、数日後届いたのが、まさか人間だとは思わないじゃん?
「お届け物でーす」って聞こえたのに、人は誰もいなくて、大きな段ボールの箱だけがそこにあった。届けるって言うなら部屋まで運んでほしいものだ。
なんとか部屋に運び入れて、箱を開けると丸坊主の学ランを着た高校生が入っていた。
「まてまてまてまて・・・・」
俺、もしかして犯罪者になっちゃう?
「あんた、未来の俺?」
箱から出てきた男子高校生にそう聞かれ、まじまじと姿を見ると、確かに高校の時の俺によく似てる。制服も俺の通っていた高校の物だ・・・。
「え・・・・どういうこと?」
「ねぇ、俺って今何してんの?」
「何って・・・普通に会社員だけど?」
「え・・・声優になってないの??」
ドキリとした。高校生の頃、演劇部に入っていた俺は、友人たちと同様に華々しい声優や俳優の世界を夢見ていた。いつかTVに出るような大スターに、もしくは有名なアニメ作品や映画の吹き替えを担当して、ビッグな演劇人になってやる!そう、思っていた。
そんな丸坊主の夢は、両親の心無い一言で、打ち砕かれた。「お前には無理だ」「そんなに演劇がしていたいなら家を出ていけ」高校生の俺には、自分の夢をボロボロに打ち砕くには十分すぎる言葉だった。
「俺・・・は・・・演劇は今は・・・やってないんだ」
「・・・そっか」
明らかに落ち込んだ顔をしている。この顔には見覚えがあった。両親を説得しようと何度も進路について相談したのに、両親は忙しさにかまけて、話を聞いてすらくれなくなっていた。そのころの俺の顔。
「まぁ、そうだよな、声優なんて、あやふやな仕事だし・・・俺がそんな、夢見るなんて、おこがましいよな!」
涙をこらえながら笑う顔、何度も何度も見て来た。もう、それは見飽きたんだよ。
「俺は、今声優になってない。・・・でも、お前がなれないかどうかはわかんねぇよ。だってまだ試してもいないだろ?諦めるのはさ、どうすれば声優になれるのか、ソレを一緒に探してからでも、良いんじゃねぇの?」
俺が、この時言ってほしかった言葉。ずっと誰かにそう言ってほしかった。
高校の頃の俺は、ソレを聞いて、少し笑って消えていった。
後日、俺は会社を辞めて、友人の経営するカフェでバイトを始めた。
「あらぁ、お兄さん、いい声ね」
なんて言ってくれるマダムのお客が増えて、友人も俺がバイトに入ることを喜んでくれた。
「ありがとうございます、実は昔声優目指してまして」
なんて言葉を、心苦しくなく言えるようになったのは、俺が、俺に、かけてほしい言葉をかけてくれたからかもしれない。
会社員時代の貯金を崩しつつ、俺は、演劇の学校に通うことにした。
——少しずつ、少しずつ——
夢はまだここに




