父の背。息子の背。
呼べばよかった
▶︎ ヴァルド・リヴァイアス
夜明け前だった。
村はまだ眠っている。
だが、ヴァルドは起きていた。
外に出ると、冷たい空気が肺に満ちる。
東の空はわずかに白み始めていた。
槍の音が聞こえた。
規則正しい。
無駄がない。
——レオンだな。
ヴァルドは足音を殺し、訓練場の端に立った。
三叉槍を構える息子の背中が見える。
力強い。
そして、どこか硬い。
「……」
声はかけなかった。
レオンの動きは完璧に近い。
技も、踏み込みも、間合いの取り方も。
村で、これに勝てる者はいない。
それでも——
(足りない)
ヴァルドは、そう思った。
それは力ではない。
技でもない。
「判断だ」
ぽつりと、独り言のように呟く。
レオンが気づき、振り返った。
「父さん」
三叉槍を下ろし、頭を下げる。
その仕草一つにも、隙がない。
「早いな」
「眠れなくて」
嘘ではない。
だが、本当でもない。
ヴァルドは一歩近づき、息子の顔を見た。
強い目だ。
だが、どこか焦っている。
「……昔のことを、思い出していたな」
レオンの肩が、わずかに揺れた。
「はい」
それ以上は言わない。
ヴァルドも、問い詰めない。
しばらく沈黙が続いた。
風が木々を揺らす音だけがする。
「レオン」
「はい」
「お前は、よくやっている」
それだけで、十分なはずだった。
だが、ヴァルドは続けた。
「誰よりも強い」
「誰よりも前に立っている」
レオンは黙って聞いている。
「……それでもな」
一度、言葉を切る。
「呼べばよかった」
短い言葉だった。
責める響きは、どこにもない。
怒りも、失望もない。
ただの事実。
レオンの拳が、きゅっと握られた。
「俺は」
言いかけて、止まる。
ヴァルドは首を振った。
「言い訳はいらん」
それも、責めてはいなかった。
「お前は間違えた」
「それだけだ」
残酷なほど、まっすぐな言葉だった。
「……はい」
レオンは俯いた。
「力が足りなかったわけじゃない」
「勇気がなかったわけでもない」
ヴァルドは息子の肩に手を置く。
「判断だ」
「それを、覚えておけ」
それだけ言うと、手を離した。
「朝飯だ」
「母さんが待ってる」
そう言って、背を向ける。
▶︎ レオン・リヴァイアス
父の背中を、見送った。
胸の奥が、痛い。
責められたかった。
怒鳴られた方が、楽だった。
「呼べばよかった」
その一言が、何度も頭の中で反響する。
——あの時も、今も。
「……だからだ」
レオンは、三叉槍を握り直す。
だから、強さが欲しい。
迷わないための力が。
父を呼ばなくていい存在になるための力が。
「準亜神……」
その言葉を、初めてはっきりと口にした。
噂でもいい。
伝承でもいい。
そこに、判断を誤らない何かがあるのなら。
「俺は、そこへ行く」
それは誓いではない。
宣言でもない。
ただ、自分自身に向けた結論だった。
東の空が、明るくなっていく。
新しい朝が来る。
だが、レオンの中では、
まだ夜が終わっていなかった。
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ちなみに尊敬しいて大好きななろう系小説は無職転生です。3期が待ち遠しすぎます。




