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魔王軍。特殊部隊。

今回は面白いのではないか?

▶︎ 魔王軍・隠密部隊幹部三人視点


---


闇は、音を嫌う。


だから、彼らは音を捨てた。


呼吸を削り、足取りを消し、

体温を落とし、鼓動を遅くする。


それでも完全には消えないものがある。

“水”だ。


水は世界を満たし、世界の情報を運ぶ。

神木の守り龍がそれを聴くなら、

水域の侵入は本来、ほとんど不可能に近い。


だが――


「可能だ」


男は、そう言われてここにいる。


命令は単純だった。


"異分子を殺せ。"


---


男は森の縁で膝をついた。


周囲には、仲間が二体。

どちらも魔獣に近い肉体を持つが形は曖昧で今にも景色に溶け込みそうな存在感の薄さを持っている。

戦うために生まれ、隠密に特化するやうに設計された個体。




今回の目的は難易度SSSランクである神木の守り龍を欺き目標への侵入と暗殺だ。


魔王軍でも暗殺や諜報に特化した隠密部隊。


魔王軍にはその個性から数多くの部隊がある。そその中でも、その能力の希少性からごく少数しか在籍しておらず。今回はその中でも幹部と呼ばれるものが三人も招集されるほどの異常事態。




一人が声を発する。


「確認する」


男は声を落とす。


「目標は、龍言を授かる個体ではない」


二体の眼が、暗闇で揺れた。


「"別の一体”だ」


「……子龍か」


「そうだ」


迷いは不要だ。

迷えば、気配が濁る。

濁れば、神木の守り龍に拾われる。


男は指先で地面の湿りをなぞった。

水の匂い。

泉の匂い。

そして――


“違和感”。


それは、匂いではない。

音でもない。

気配でもない。


もっと根源に近い、

世界の奥行きが一瞬だけ“よじれる”ような感触。


「……これか」


男は唇の内側で呟いた。


報告書にはこう書かれていた。


> 竜と邂逅した個体がいる。

> だが捕捉対象はその個体ではない。

> 竜の邂逅によって、異分子の座標が確定した。

> その“異分子”は、まだ覚醒していない。

> だが、確実に世界の構造に干渉している。


つまり――


竜は、扉を開いた。

その扉から漏れたものを、こちらが嗅ぎつけた。


男は改めてその異常性を理解した。


今回の任務がただの暗殺ではないことを。


---


移動は10日。


水域を避け、

木の根を踏まず、

風の向きを変えない。


速度は速ければ速いほど世界からは認識されにくくなる。つまり彼らは速度においても魔王軍で指折りの者達であった。




そして最も重要なのは、

神木の守り龍の“聴覚”を欺くこと。


男たちが使うのは、魔法ではない。

魔法は濁る。

濁りは聴かれる。


使うのは、欠落だ。


気配の“無さ”を作る技。

存在を薄くし、

世界の帳尻合わせに紛れ込む。


代償として男たちの感情は削れていく。


恐怖も、焦りも、怒りも。

使えば使うほど、薄くなる。


感情を失う力、そのかわり――その絶大な代償を伴った力には莫大な恩恵が伴う。



殺せ。

見つかるな。

終わらせろ。


---


龍泉の滝が近づくにつれ、

水の圧が増した。


普通ならここで終わる。

神木の守り龍が気づく。


だが気づかなかった。


否。


気づけなかったのだ。


男は、滝の音の“奥”に

別の音が混じっているのを感じた。


それは大きくはない。

派手でもない。


揃って、また散る。


――四年。


男は確信する。


「覚醒が、近い」


報告にあった“ラグ”。


竜と邂逅し、

言葉を授かり、

それが世界に定着するまでの時間。


その時間の中で、

こちらは移動した。


そして今、

その“定着”が起ころうとしている。


今この瞬間このタイミングが一番に水の音が不安定になっている。


だから急ぐ必要がある。


神木の守り龍の探知能力がほんの少し揺らいでいるこの瞬間に間に合わせなければいけない。


目覚める前に殺せばいい。

目覚めた後では探知されてしまい暗殺では済まなくなる。


男は笑わない。


笑う感情は、もう薄い。


---


「行く」


男が合図を出す。


二体が頷く。

そして散る。


狙いは一点。

滝壺の中心ではない。


神木の守り龍の後ろにいる幼い個体。


目標は今はまだ弱い。


しかし、神木の守り龍は別格だ。彼の者もまた暗殺部隊と同じく大きな呪いを課すことで莫大な力を得ている。


その内容はその地位を引き継いだ瞬間に龍泉の村から出ることを許されない。小さな世界で一族の繁栄の守護者として在り続ける。土地に縛る呪い。故にその土地にて最強。




そんな神木の守り龍の欺き標的を屠るためのに、この部隊は作られた。


男は確信していた。


――届く。

――殺せる。




その瞬間まで。


---


“水”が、揃った。


揃ってしまった。


男の視界が一瞬、ズレる。

狙いがブレる。


あり得ない。


欠落の技は完璧だった。

神木の守り龍にすら拾われないはずだった。


それなのに。


男は、背筋を凍らせた。


そこにいた。


四年間、滝に溶けていた個体が、

立ち上がった。


言葉が響く。


音は静かなはずなのに、

世界の奥の奥が鳴る。


男は理解する。


――“言葉”だ。

――竜が渡した“在り方”が、今、世界に固定される。


そして、命令の意味が完全に変わる。


これは暗殺ではない。

これは――


間に合わなかったという報告になる。


そんな報告はあり得ないというのに、否。あってはならないことであったのだ。


---


全身全霊、文字通り命をかけた一撃を子龍へと振り下ろした。


瞬きも許されないほどの刹那。


男の武器の狙いの軌道が逸れた。否。間違いなく標的の異分子を捉え、致命的な一撃を与えたはずであった。

しかし、認識とは裏腹に、現実が改変された結果として、滝壺より立ち上がりし個体の肩が裂けた。


血が落ちる。


その血が落ちた瞬間、

男は見た。


“守護”と“呪い”が同時に走るのを、そして自分の命の灯火が消える習慣を。


そして。


傷ついたはずの男の“力”が、跳ね上がる。


男が認識できたのはそこまでであった。


--通過。




彼の薄い意識が完全にこの世から刈り取られた瞬間であった。


ただそれだけで個体が形を失った。


残り二人は理解した。


――この部隊は魔王軍でも指折りの部隊だ。


だが、そんな彼らが感じとった感想は戦闘が始まった時点で負ける。


---


「撤――」


言いかけた男の喉が詰まった。




“欠落”の技を使いすぎたせいではない。

違う。


もっと直接的だ。


意識が認識が首と身体との繋がりが消えていく。




男は最後に、幼い個体を見る。


狙いは、そこにいた。

震えていた。

生きていた。


そして男は死にゆく意識の中で覚醒した超感覚で感じとった子龍の気配から、自分が“間に合わなかった”ことの重大さを知る。


異分子。


まだ言葉にならない何か。


竜の血。

森の応え。

そして――


もっと上からの視線。


男は、その視線の気配を

一瞬だけ感じた。


遠い神界から、掠めるように。


そして、暗闇は終わる。


---


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