敵の襲来。親子の龍言。
▶︎ レオン・リヴァイア/リオン・リヴァイア/ヴァルド・リヴァイアス
### 第二十四話
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滝の音が、ずれた。
ほんの一瞬。
だが、確かに。
ヴァルドは、先に気づいた。
「――来るぞ」
その声は低く、短い。
リオンが振り返った瞬間、
森の奥から“気配”がにじみ出た。
数は三。
魔獣に近いが、知性がある。
狙いを定めている目だ。
「父さん……?」
「動くな」
ヴァルドは一歩、前に出た。
その瞬間、彼は親指で自分の掌を裂く。
血が、地面に落ちる。
詠唱はない。
溜めもない。
ただ一言。
「《ヴァル=ブラッドリー》」
血が脈打った。
次の瞬間、ヴァルドの足元の岩が砕ける。
踏み込みだけで、地形が悲鳴を上げた。
敵が動く。
一体が正面から。
二体が左右に散る。
――狙いは、後ろ。
リオン。
「っ!」
ヴァルドが視線を走らせるより早く、
影が弾けた。
一体が、一直線にリオンへ跳ぶ。
その時だった。
レオンが、立ち上がった。
水音が止まる。
いや、違う。
水が、レオンを中心に揃った。
「――――」
初めて、四年ぶりに。
レオンの口が動いた。
水が早く言ってくれと急かすかのように激しく波打ちリオンの記憶にあるレオンの声からは想像もつかないほど荘厳で威厳のある重低音が龍泉の全域に響き渡る。
そしてレオン・リヴァイアスは竜より賜りしその言葉を現世へと紡ぐ。
『我が命、我が力を以て、彼の者の存在を守らんとせよ』
《ヴァル=ガルディア》
静かに龍言が放たれる。
意味は分からない。
音だけが、世界を押し曲げた。
敵の刃が、リオンに届く寸前――
軌道が逸れた。
その代わり。
ズン、と鈍い音。
レオンの肩が、裂ける。
血が、滝に混じる。
「兄ちゃん!!」
叫ぶ間もなく。
レオンの足元の水が爆ぜた。
筋肉が、軋む音。
骨が、位置を変える感覚。
ステータスが、跳ね上がる。
次の瞬間、
リオンを狙った敵は――消えた。
斬撃ですらない。
通過しただけ。
肉塊が、後方の岩に叩きつけられる。
ヴァルドの前では、
残る一体が睨み合っていた。
――だが、割り込む影。
レオン。
傷口から血を流したまま、
何の躊躇もなく踏み込む。
一閃。
敵は声も出せず、崩れ落ちた。
最後の一体が逃げようとした瞬間、
「遅い」
ヴァルドが言った。
《ヴァル=ブラッドリー》
地面が砕け、
敵はその場で叩き潰された。
滝の音が、戻る。
静寂。
リオンは、震えたまま立ち尽くしていた。
レオンは、ゆっくり振り返る。
「……無事か」
声は、かすれている。
「う、うん……」
リオンは駆け寄ろうとして、止まった。
兄の身体から、
血と同時に、何かが抜けていくのが分かったから。
ヴァルドが、静かに言う。
「それでいい」
レオンは、何も答えなかった。
ただ、
守る位置に立ち続けていた。
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