龍言の。習得。
ここは間話みたいなもんです。次話からテンポ上げていきます。
これから家族が死ぬので心してください涙
▶︎ レオン・リヴァイア
### 第二十三話
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音が、消えていた。
正確には――
音という概念そのものが、意味を持たなくなっていた。
滝は落ちている。
水は砕け、流れ、泡立ち、消えていく。
それを、レオンは「聞いていない」。
見てもいない。
触れてもいない。
――在る。
ただ、それだけだった。
四年。
数えなくなってから、どれくらい経ったのか。
時間は、とうに形を失っている。
寒さも、痛みも、重さも、
すべてが「自分」という境界を越えて、
水と同じ場所に溶けていた。
息をしているのかどうかさえ、分からない。
それでも――
終わりが近いことだけは、分かった。
理由はない。
予兆もない。
ただ、
「これ以上、削られるものがない」
という感覚だけがあった。
――もう、残った。
その瞬間だった。
水の奥で、
何かが“こちらを見た”。
形はない。
輪郭もない。
巨大でも、小さくもない。
それなのに、
圧倒的に、竜だった。
《よく来たな》
音ではない。
言葉でもない。
だが、確かに「そうだった」。
《我が子よ》
否定する理由は、なかった。
レオンは、自分が誰なのかを思い出そうとしなかった。
名前も、過去も、家族も。
それらは、もう不要だった。
ここに来るために、
すべて水に溶かしてきたのだから。
《欲しいか》
竜は、そう問わなかった。
《守るのか》
ただ、それだけを示した。
レオンは、考えなかった。
選びもしなかった。
――それは、ずっと前から決まっていた。
水に溶ける前から。
言葉を失う前から。
いや、
生まれた時から。
世界が、揺れた。
否――
揺れたのは、世界の方だった。
水が、初めて「水ではなくなった」。
流れが、止まる。
滝が、落ちない。
音が、戻らない。
その中心で、
レオンは――立っていた。
目を、開く。
空は、いつもと同じ色だった。
滝は、また落ちている。
水は、音を立てて砕けている。
身体は、冷たい。
重い。
確かに、ここにある。
だが――
何かが、決定的に違っていた。
言葉は、出てこない。
出そうとも、思わない。
必要がない。
代わりに、
胸の奥に「在り方」が沈んでいる。
一つだけ。
たった一つ。
それ以上あれば、壊れると分かる。
それで、十分だとも。
岸に、二つの気配がある。
父と、弟。
レオンは、そちらを見た。
その瞬間、
水が、わずかに彼を避けた。
意図していない。
命じてもいない。
ただ、
そう在った。
レオンは、初めて息を吐いた。
長い、長い――
四年分の、息を。
修行は、終わった。
龍言は、
もう、彼の中にある。
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